モバP「テレビでも見るかぁ」
1 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [1/34回(PC)] 最悪だ――
思わず口の中でそう呟いた。
薄暗い物置の中、俺はドアノブを握り締めて立ち尽くしている。
智絵里「ぷ、プロデューサーさん……」
そんな俺を後ろから智絵里が抱きしめてくれている。
守らなければ。
俺が、智絵里を。
まゆ「うふふ」
薄いドア越しに熱い吐息の混ざった笑いが聞こえる。
汗でノブが滑る。
ぎぎぎぎぎぎと回転しようとするドアノブを俺は握り直した。
まゆ「ねぇ。貴方はまゆのモノなんですよ。……ぜぇんぶ、ね?」
3 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [2/34回(PC)]
5 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [3/34回(PC)]
6 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [4/34回(PC)]
7 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [5/34回(PC)]
8 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [6/34回(PC)]
9 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [7/34回(PC)]
10 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:gsUNQvMUO [1/1回(携帯)]
11 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:/MIhlH0N0 [1/3回(PC)]
12 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:s+LAG7iU0 [2/7回(PC)]
13 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [8/34回(PC)]
15 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [9/34回(PC)]
16 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [10/34回(PC)]
18 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [11/34回(PC)]
19 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [12/34回(PC)]
20 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [13/34回(PC)]
22 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [14/34回(PC)]
25 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [15/34回(PC)]
26 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] : 投稿日:ID:p8qa2wZj0 [1/1回(PC)]
27 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [16/34回(PC)]
28 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [17/34回(PC)]
31 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [18/34回(PC)]
32 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [19/34回(PC)]
35 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [20/34回(PC)]
37 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [21/34回(PC)]
38 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:FIJhUjtf0 [1/1回(PC)]
39 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [22/34回(PC)]
41 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [23/34回(PC)]
44 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [24/34回(PC)]
45 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [25/34回(PC)]
46 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [26/34回(PC)]
47 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [27/34回(PC)]
50 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [28/34回(PC)]
55 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [29/34回(PC)]
57 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [30/34回(PC)]
61 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:cIUPiiA/0 [1/1回(PC)]
63 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [31/34回(PC)]
68 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [32/34回(PC)]
72 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] : 投稿日:ID:y+h2iW2x0 [1/1回(PC)]
73 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:yM7GUU6C0 [33/34回(PC)]
74 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] : 投稿日:ID:EwIhr9xE0 [1/1回(PC)] よかった…病んだちえりんはいなかったんだね
思わず口の中でそう呟いた。
薄暗い物置の中、俺はドアノブを握り締めて立ち尽くしている。
智絵里「ぷ、プロデューサーさん……」
そんな俺を後ろから智絵里が抱きしめてくれている。
守らなければ。
俺が、智絵里を。
まゆ「うふふ」
薄いドア越しに熱い吐息の混ざった笑いが聞こえる。
汗でノブが滑る。
ぎぎぎぎぎぎと回転しようとするドアノブを俺は握り直した。
まゆ「ねぇ。貴方はまゆのモノなんですよ。……ぜぇんぶ、ね?」
女「最低よ、あなたって」
ぱしゃり。
投げつけるような言葉とともに、俺の頭から水がかけられた。
女「恋人よりも、アイドルのほうが大事なんでしょう?
私なんかよりも、そのアイドルの子とデートしていればいいでしょう!」
そう吐き捨てて女が喫茶店から出ていく。
前髪からぽたぽたと雫をたらして、まっしろになった頭で俺は思った。
違う。
違うんだ。どっちもなんだよ。
俺は、お前も、アイドルも、どっちもどうでもいいんだ。
ぱしゃり。
投げつけるような言葉とともに、俺の頭から水がかけられた。
女「恋人よりも、アイドルのほうが大事なんでしょう?
私なんかよりも、そのアイドルの子とデートしていればいいでしょう!」
そう吐き捨てて女が喫茶店から出ていく。
前髪からぽたぽたと雫をたらして、まっしろになった頭で俺は思った。
違う。
違うんだ。どっちもなんだよ。
俺は、お前も、アイドルも、どっちもどうでもいいんだ。
恋人から一方的に別れを告げられてから、一週間。
ぽっかりと穴の空いた心を抱えて俺はいつもどおり仕事をこなしていた。
だが、
まゆ「ねぇ、まゆが人気でたら嬉しい?」
「まゆは、プロデューサーさんが喜んでくれるならなんでもするの」
「まゆのプロデューサーさんへの愛はとっても純粋なんだから……」
担当アイドルのひとりである佐久間まゆに辟易していた。
スカウトしたときからしつこく絡まれているが、最近それがひどくなってきていた。
ぽっかりと穴の空いた心を抱えて俺はいつもどおり仕事をこなしていた。
だが、
まゆ「ねぇ、まゆが人気でたら嬉しい?」
「まゆは、プロデューサーさんが喜んでくれるならなんでもするの」
「まゆのプロデューサーさんへの愛はとっても純粋なんだから……」
担当アイドルのひとりである佐久間まゆに辟易していた。
スカウトしたときからしつこく絡まれているが、最近それがひどくなってきていた。
智絵里「ぷ、プロデューサーさん……わたし、がんばりました……っ」
P「うん、すごいよかったぞ。智絵里」
智絵里「えへへ……」
今日も、一仕事終えた智絵里と話していると、まゆが近寄ってきて、俺の耳元で囁いた。
まゆ「――他の子との話、楽しいですかぁ……?」
P「………。智絵里、悪いけどちょっと待っててくれるか。まゆ、こっちに来い」
智絵里「あ……、はい」
まゆ「うふ、強引ですね」
俺はまゆの腕を掴んで応接室へ連れ込んだ。
P「うん、すごいよかったぞ。智絵里」
智絵里「えへへ……」
今日も、一仕事終えた智絵里と話していると、まゆが近寄ってきて、俺の耳元で囁いた。
まゆ「――他の子との話、楽しいですかぁ……?」
P「………。智絵里、悪いけどちょっと待っててくれるか。まゆ、こっちに来い」
智絵里「あ……、はい」
まゆ「うふ、強引ですね」
俺はまゆの腕を掴んで応接室へ連れ込んだ。
P「お前、どういうつもりだ。今俺は智絵里と話してただろ」
まゆ「貴方はまゆのことだけ見ていればいいんですよ。他の女なんていりません」
P「そうじゃないだろ。智絵里だって仕事仲間なんだ、おろそかにできるか」
まゆ「はやくまゆを貴方の色に染めてください……ねぇ?」
話の通じないまゆに苛立ちを隠せない。
P「いいか。俺が他の人と話しているときはお前と話せないんだ。用事があるなら言ってくれ、時間をとるから」
まゆ「貴方はまゆのことだけ見ていればいいんですよ。他の女なんていりません」
P「そうじゃないだろ。智絵里だって仕事仲間なんだ、おろそかにできるか」
まゆ「はやくまゆを貴方の色に染めてください……ねぇ?」
話の通じないまゆに苛立ちを隠せない。
P「いいか。俺が他の人と話しているときはお前と話せないんだ。用事があるなら言ってくれ、時間をとるから」
言葉の端々に怒りをにじませても、まゆは毛ほども気にせずに自身の指を絡めて微笑んでいる。
まゆ「この指も、唇も、胸も、前も後ろも、ぜぇんぶ貴方のなんですよ? だから、貴方もみんなまゆのものなんです♪」
お前なんかいらねえよ。
口をついて出そうになる激情を押し殺して、俺はなんとかまゆを説得しようとする。
P「お前な……」
しかし、できなかった。
陶然とした表情のまゆが続けた、言葉によって。
まゆ「貴方に近づく女はみんな邪魔……まゆがきれぇいに排除してあげますからね」
まゆ「この指も、唇も、胸も、前も後ろも、ぜぇんぶ貴方のなんですよ? だから、貴方もみんなまゆのものなんです♪」
お前なんかいらねえよ。
口をついて出そうになる激情を押し殺して、俺はなんとかまゆを説得しようとする。
P「お前な……」
しかし、できなかった。
陶然とした表情のまゆが続けた、言葉によって。
まゆ「貴方に近づく女はみんな邪魔……まゆがきれぇいに排除してあげますからね」
タイトルから想像できなかった内容
なんだろうまゆがでてきただけで吹き出してしまった
智絵里に酷い事したら俺が降ってくるぞ
俺の脳裏に一週間前の出来事がよぎる。
怒りの表情、軽蔑のまなざし、嫌悪の言葉。
―――「最低よ、あなたって」
髪を濡らす水。
……まさか。
P「お前――あいつになにか言ったのか」
まゆ「貴方にふさわしいのはまゆだけ。まゆと貴方は運命でつながれているんです」
うふふ、とそいつは笑った。
カッと目の前が赤くなる。
P「お前のせいで! お前のせいで俺は……!」
俺は自分がまゆの胸倉を掴み挙げるのを止めることが出来ない。
怒りの表情、軽蔑のまなざし、嫌悪の言葉。
―――「最低よ、あなたって」
髪を濡らす水。
……まさか。
P「お前――あいつになにか言ったのか」
まゆ「貴方にふさわしいのはまゆだけ。まゆと貴方は運命でつながれているんです」
うふふ、とそいつは笑った。
カッと目の前が赤くなる。
P「お前のせいで! お前のせいで俺は……!」
俺は自分がまゆの胸倉を掴み挙げるのを止めることが出来ない。
喪失感の代わりに憎しみが心を満たす。
俺が睨みつけても、彼女は瞳をとろりとさせて微笑んでいるだけだ。
P「お前、なんのつもりなんだ! 俺に、どうしろっていうんだッ!」
まゆ「まゆだけを見ていてください……」
P「そんなことできるか!」
まゆ「いいえ、そうじゃないとだめです。貴方のために、事務所も読モも辞めてきたんです。
まゆは貴方だけを見てます……だから貴方もまゆだけを、見て♪」
P「ふ……ッざけんなよ!」
沸騰した感情のままにまゆを突き飛ばす。
俺が睨みつけても、彼女は瞳をとろりとさせて微笑んでいるだけだ。
P「お前、なんのつもりなんだ! 俺に、どうしろっていうんだッ!」
まゆ「まゆだけを見ていてください……」
P「そんなことできるか!」
まゆ「いいえ、そうじゃないとだめです。貴方のために、事務所も読モも辞めてきたんです。
まゆは貴方だけを見てます……だから貴方もまゆだけを、見て♪」
P「ふ……ッざけんなよ!」
沸騰した感情のままにまゆを突き飛ばす。
人形のようにソファに倒れこんだ彼女は、天井を見上げてけらけらと笑い声を上げた。
まゆ「貴方の怒りも、憎しみも、ぜんぶ下さい♪ まゆが愛してあげますから……」
P「気持ち悪ぃ……! お前なんかただの商売道具だ! 他の何でもねえよ!」
フラッシュバック。
張り切る少女を応援する俺。
座り込んでうなだれる少女。
励ます俺を、少女は睨んだ。
少女が口をわずかに動かして俺を詰った。
まゆ「貴方の怒りも、憎しみも、ぜんぶ下さい♪ まゆが愛してあげますから……」
P「気持ち悪ぃ……! お前なんかただの商売道具だ! 他の何でもねえよ!」
フラッシュバック。
張り切る少女を応援する俺。
座り込んでうなだれる少女。
励ます俺を、少女は睨んだ。
少女が口をわずかに動かして俺を詰った。
俺はそれ以来アイドルに心を動かさなくなった。
特性と評価を見て、仕事を振り分け、レッスンを課し、また仕事を取ってきて利益を得る。
アイドルは家畜と同じだ。
世話を焼いてやるが、愛情は無い。
結局は出荷して失ってしまう、使い捨ての道具。
まゆ「だいじょうぶです。まゆだけは違います。まゆだけは特別。まゆだけ……」
P「うるさい、やめろ!」
サイドテーブルを蹴っ飛ばす。
妖しげに身をくねらせてまゆが悶えた。笑ってやがる。
特性と評価を見て、仕事を振り分け、レッスンを課し、また仕事を取ってきて利益を得る。
アイドルは家畜と同じだ。
世話を焼いてやるが、愛情は無い。
結局は出荷して失ってしまう、使い捨ての道具。
まゆ「だいじょうぶです。まゆだけは違います。まゆだけは特別。まゆだけ……」
P「うるさい、やめろ!」
サイドテーブルを蹴っ飛ばす。
妖しげに身をくねらせてまゆが悶えた。笑ってやがる。
智絵里「あ、あの……」
静かにドアを開いて、智絵里がおそるおそるといった様子で覗き込んでいた。
P「ち、智絵里」
智絵里「だ、大丈夫、ですか……? どう、したんですか」
不安そうな表情。
俺の怒鳴り声もばっちり聞こえていただろう。
P「大丈夫だ。ちょっと熱くなっちゃってな。な、まゆ……」
チキチキチキチキ……
振り返ると、まゆが無表情でカッターを握っていた。
嘘……だろ。おい。
P「智絵里、ついてこい!」
俺は慌てて智絵里の手をとって走り出した。
智絵里「えっ? あ……」
まゆ「うふふ。どこにいくんですかぁ?」
ゆらりと起き上がったまゆが一瞬見えた。
静かにドアを開いて、智絵里がおそるおそるといった様子で覗き込んでいた。
P「ち、智絵里」
智絵里「だ、大丈夫、ですか……? どう、したんですか」
不安そうな表情。
俺の怒鳴り声もばっちり聞こえていただろう。
P「大丈夫だ。ちょっと熱くなっちゃってな。な、まゆ……」
チキチキチキチキ……
振り返ると、まゆが無表情でカッターを握っていた。
嘘……だろ。おい。
P「智絵里、ついてこい!」
俺は慌てて智絵里の手をとって走り出した。
智絵里「えっ? あ……」
まゆ「うふふ。どこにいくんですかぁ?」
ゆらりと起き上がったまゆが一瞬見えた。
智絵里「あ、あのっ……、ど、どこに、いくんですか……っ!?」
どこにいけばいいんだろうな。
俺は通話を終えたケータイを閉じて頭の中に地図を思い浮かべる。
P「………。階段から外に出るぞ」
まゆは同僚を傷つけるだろうか。
わからない。
だがそんなことを考えている猶予は無い。
あいつが智絵里を刺してからでは遅いんだ。
まゆ「うふふ……まゆを置いていかないで下さいね♪」
追いかけて来ている。
意外と早い。
智絵里を連れているぶん、こちらが遅いのか。
事務所は四階だ。下まで間に合わない。
P「こっちだ」
小声で智絵里を引き寄せて、するりと物置に隠れた。
どこにいけばいいんだろうな。
俺は通話を終えたケータイを閉じて頭の中に地図を思い浮かべる。
P「………。階段から外に出るぞ」
まゆは同僚を傷つけるだろうか。
わからない。
だがそんなことを考えている猶予は無い。
あいつが智絵里を刺してからでは遅いんだ。
まゆ「うふふ……まゆを置いていかないで下さいね♪」
追いかけて来ている。
意外と早い。
智絵里を連れているぶん、こちらが遅いのか。
事務所は四階だ。下まで間に合わない。
P「こっちだ」
小声で智絵里を引き寄せて、するりと物置に隠れた。
荒い息をなんとか静める。
智絵里は――さすがにレッスンしているだけあって体力はあるのか――軽く息を整えると、じっとこちらを見つめてきた。
P「………」
唇に指を立てて黙らせる。
智絵里「! ………」
握りっぱなしだった俺の手をぎゅっと掴む智絵里。
俺はそれを払いのけてドアノブを両手で固定した。
物置に鍵は無い。
智絵里は――さすがにレッスンしているだけあって体力はあるのか――軽く息を整えると、じっとこちらを見つめてきた。
P「………」
唇に指を立てて黙らせる。
智絵里「! ………」
握りっぱなしだった俺の手をぎゅっと掴む智絵里。
俺はそれを払いのけてドアノブを両手で固定した。
物置に鍵は無い。
静かだ。
くそ。
思い出したくもないことを思い出してしまう。
はじめて担当したアイドルの末路。
私生活まで投げ出してすべてを注ぎ込んだつもりだった。
トップアイドルにしてみせる、なんて熱い夢を持ってプロデュースしていた。
結果は大失敗。
知らないところで馬鹿な男とつきあって淫猥な写真をネットに広められた。
直後のミニライブでファンからブーイングとサイリウムと悪意を投げつけられて少女は楽屋でうずくまっていた。
くそ。
思い出したくもないことを思い出してしまう。
はじめて担当したアイドルの末路。
私生活まで投げ出してすべてを注ぎ込んだつもりだった。
トップアイドルにしてみせる、なんて熱い夢を持ってプロデュースしていた。
結果は大失敗。
知らないところで馬鹿な男とつきあって淫猥な写真をネットに広められた。
直後のミニライブでファンからブーイングとサイリウムと悪意を投げつけられて少女は楽屋でうずくまっていた。
怖いけど先が読みたくなってしまう不思議
――「つ、次があるって。がんばろう? な?」
――「……いよ……」
――「え?」
――「あんたのせいよッ!」
――「え……」
――「あんたが無能なせいで! あたしがあんな目に!」
――「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
――「近寄らないでよ! もうイヤ! アイドルなんてもうやめる! 最初からやるんじゃなかった!」
――「う。嘘だろ。なぁ」
――「あんたって……最低よ」
――「……いよ……」
――「え?」
――「あんたのせいよッ!」
――「え……」
――「あんたが無能なせいで! あたしがあんな目に!」
――「ちょ、ちょっと待ってくれ……」
――「近寄らないでよ! もうイヤ! アイドルなんてもうやめる! 最初からやるんじゃなかった!」
――「う。嘘だろ。なぁ」
――「あんたって……最低よ」
ほんのりとした体温で俺は現実に引き戻された。
智絵里が後ろから俺を抱きしめていた。
P「おい……」
智絵里「プロデューサーさん……泣かないで」
泣いてる? 俺が?
いや、俺は泣いていないが。
智絵里「どこにも行かないで……わたしを見捨てないで」
P「俺はアイドルを見捨てたりしない」
震えそうになる声をなんとか抑える。
俺はアイドルを見捨てない。
アイドルに見捨てられるだけだ。
智絵里が後ろから俺を抱きしめていた。
P「おい……」
智絵里「プロデューサーさん……泣かないで」
泣いてる? 俺が?
いや、俺は泣いていないが。
智絵里「どこにも行かないで……わたしを見捨てないで」
P「俺はアイドルを見捨てたりしない」
震えそうになる声をなんとか抑える。
俺はアイドルを見捨てない。
アイドルに見捨てられるだけだ。
まゆ「うふ。どこいったんですかぁ~?」
甘ったるい声が廊下に響いた。
智絵里がびくりとする。
まゆ「ここですかぁ~?」
楽しそうに笑いながらまゆが別室のドアを開いていく。
まゆ「こっちかなぁ~?」
だんだん近づいてくる。
智絵里が震えだした。
まゆ「ここにはいませんねぇ……」
隣の部屋だ。
甘ったるい声が廊下に響いた。
智絵里がびくりとする。
まゆ「ここですかぁ~?」
楽しそうに笑いながらまゆが別室のドアを開いていく。
まゆ「こっちかなぁ~?」
だんだん近づいてくる。
智絵里が震えだした。
まゆ「ここにはいませんねぇ……」
隣の部屋だ。
智絵里「ぷ、プロデューサーさん……」
俺は両手に力を込めた。
まゆ「うふふ」
足音が目の前で止まる。
ノブが回ろうとするのを全力で阻止する。
まゆ「ねぇ。貴方はまゆのモノなんですよ。……ぜぇんぶ、ね?」
そんなわけあるか。
俺はもうアイドルに深入りしない。
俺はお前のものじゃない。
俺は両手に力を込めた。
まゆ「うふふ」
足音が目の前で止まる。
ノブが回ろうとするのを全力で阻止する。
まゆ「ねぇ。貴方はまゆのモノなんですよ。……ぜぇんぶ、ね?」
そんなわけあるか。
俺はもうアイドルに深入りしない。
俺はお前のものじゃない。
一時間もそうしていたみたいだった。
腕時計の秒針は一周していた。
ノブは静止している。
行ったか。
俺は息を吐いてノブから手を離す。
とでも、思っているんだろ?
俺を油断させて隙を作ろうという作戦なんだろうが、そうはいくか。
俺がそう考えながら手を離さずドアに肩を押し当てていると、
予兆もなく衝撃が襲ってきた。
P「っ!?」
智絵里「ひっ」
腕時計の秒針は一周していた。
ノブは静止している。
行ったか。
俺は息を吐いてノブから手を離す。
とでも、思っているんだろ?
俺を油断させて隙を作ろうという作戦なんだろうが、そうはいくか。
俺がそう考えながら手を離さずドアに肩を押し当てていると、
予兆もなく衝撃が襲ってきた。
P「っ!?」
智絵里「ひっ」
ドアを蹴飛ばされたのか!?
驚いて一瞬ノブを押さえる力が緩んだ。
がちゃ、とドアが押し開かれる。
まゆ「うふふ……みぃつけたぁ♪」
P「くそっ!」
まゆが隙間に片足をねじ込む。
俺がその足を蹴飛ばそうとしたとき、手に軽い刺激。
P「痛っ?」
熱。
指がざっくりと切れている。
赤い血がぶわりと溢れ出した。
驚いて一瞬ノブを押さえる力が緩んだ。
がちゃ、とドアが押し開かれる。
まゆ「うふふ……みぃつけたぁ♪」
P「くそっ!」
まゆが隙間に片足をねじ込む。
俺がその足を蹴飛ばそうとしたとき、手に軽い刺激。
P「痛っ?」
熱。
指がざっくりと切れている。
赤い血がぶわりと溢れ出した。
やだこわい
まゆ「うふ。きれいな色ですね。血って、どんな味でしょうか……?」
ぺろりと舌なめずりするまゆの手に、包丁が握られていた。
P「うわぁ!」
智絵里「きゃあっ」
恐怖にはじかれるように後退する俺。
智絵里が背後で転んだようだ。
まゆがしずしずと進入してくる。
P「智絵里! 下がってろ!」
智絵里「ふぁ……? は、はいっ」
ぺろりと舌なめずりするまゆの手に、包丁が握られていた。
P「うわぁ!」
智絵里「きゃあっ」
恐怖にはじかれるように後退する俺。
智絵里が背後で転んだようだ。
まゆがしずしずと進入してくる。
P「智絵里! 下がってろ!」
智絵里「ふぁ……? は、はいっ」
まゆ「待ってて下さいね、すぐにその子を片付けちゃいますから……うふふ♪」
おそらく給湯室にあったものだろう包丁をこちらに向けるまゆ。
後ろにいる智絵里をかばって俺はまゆと相対した。
P「まゆ」
まゆ「はい♪」
P「その包丁でどうするつもりだ」
会話は時間稼ぎだ。
おそらく給湯室にあったものだろう包丁をこちらに向けるまゆ。
後ろにいる智絵里をかばって俺はまゆと相対した。
P「まゆ」
まゆ「はい♪」
P「その包丁でどうするつもりだ」
会話は時間稼ぎだ。
指から零れた血が床に垂れる。
いてえな、チクショウ。
まゆ「貴方の周りの女をみんな始末すれば、貴方はまゆだけを見てくれる……」
P「ありえない。お前はおかしい」
まゆ「うふふ……貴方のことが好きで好きで、おかしくなっちゃったのかもしれませんね♪」
捧げるように包丁を掲げて、まゆは包丁についた血を舐めた。
まゆ「嗚呼……美味しいです……貴方の血が、まゆのなかに入ってくる……」
恍惚の表情を浮かべるまゆ。
俺は奥歯が震えだすのを止めるために食いしばった。
狂ってる。
まゆ「これでまゆと貴方は一緒です、いつまでも……」
いてえな、チクショウ。
まゆ「貴方の周りの女をみんな始末すれば、貴方はまゆだけを見てくれる……」
P「ありえない。お前はおかしい」
まゆ「うふふ……貴方のことが好きで好きで、おかしくなっちゃったのかもしれませんね♪」
捧げるように包丁を掲げて、まゆは包丁についた血を舐めた。
まゆ「嗚呼……美味しいです……貴方の血が、まゆのなかに入ってくる……」
恍惚の表情を浮かべるまゆ。
俺は奥歯が震えだすのを止めるために食いしばった。
狂ってる。
まゆ「これでまゆと貴方は一緒です、いつまでも……」
P「そうかよ!」
まゆに掴みかかる。
がらすのような目をしてまゆが突き出した包丁が俺の二の腕を切りつける。
P「くそがああああっ!」
吼えながら全力で壁に叩きつけた。
まゆ「あうっ!」
床に落ちた包丁を蹴飛ばした俺の首にまゆが手を伸ばす。
P「ぐぅ……!」
まゆに掴みかかる。
がらすのような目をしてまゆが突き出した包丁が俺の二の腕を切りつける。
P「くそがああああっ!」
吼えながら全力で壁に叩きつけた。
まゆ「あうっ!」
床に落ちた包丁を蹴飛ばした俺の首にまゆが手を伸ばす。
P「ぐぅ……!」
まゆ「う、ふ、ふ♪」
首を絞められて痛みと窒息感で視界が明滅する。
まゆの笑顔が見えた。
こいつのせいで……!
P「があああああ!」
渾身の力を込めてまゆの腹を蹴飛ばす。
まゆ「う゛ぁっ!」
開きっぱなしだったドアから廊下へと吹き飛んだまゆが壁に激突して倒れる。
P「げほっ、ごほっ、はぁっ、はぁっ!」
急いでドアを閉めなおす。
肩と指の痛みに顔をしかめながらロッカーやデスクでドアをふさぐ。
首を絞められて痛みと窒息感で視界が明滅する。
まゆの笑顔が見えた。
こいつのせいで……!
P「があああああ!」
渾身の力を込めてまゆの腹を蹴飛ばす。
まゆ「う゛ぁっ!」
開きっぱなしだったドアから廊下へと吹き飛んだまゆが壁に激突して倒れる。
P「げほっ、ごほっ、はぁっ、はぁっ!」
急いでドアを閉めなおす。
肩と指の痛みに顔をしかめながらロッカーやデスクでドアをふさぐ。
ばたばたと複数人の足音。
早苗「おとなしくしてよ、まゆちゃん!」
まゆ「邪魔させないんだからぁっ!」
早苗「ちょっとごめんねッ!」
どたばたとドアの向こうが騒がしくなったかと思うと、すぐに静まった。
ちひろ「プロデューサーさん! だいじょうぶですか!?」
P「あぁちひろさん! 大丈夫です!」
ちひろ「よかった、間に合ったみたいですね……」
早苗「おとなしくしてよ、まゆちゃん!」
まゆ「邪魔させないんだからぁっ!」
早苗「ちょっとごめんねッ!」
どたばたとドアの向こうが騒がしくなったかと思うと、すぐに静まった。
ちひろ「プロデューサーさん! だいじょうぶですか!?」
P「あぁちひろさん! 大丈夫です!」
ちひろ「よかった、間に合ったみたいですね……」
P「ありがとうございます。智絵里も無事で……」
ずぶり。
P「え?」
ずぶり。
P「え?」
腹に異物感。
首だけで振り返ると、智絵里が俺に密着していた。
智絵里「ぷ、プロデューサーさん……」
P「ち、えり?」
ちひろ「プロデューサーさん? ドアを開けてください!」
ゆっくりと智絵里が下がると、俺は力が抜けて体を智絵里に向けながらずるずると座り込んでしまう。
智絵里はぼうんやりとしている。
首だけで振り返ると、智絵里が俺に密着していた。
智絵里「ぷ、プロデューサーさん……」
P「ち、えり?」
ちひろ「プロデューサーさん? ドアを開けてください!」
ゆっくりと智絵里が下がると、俺は力が抜けて体を智絵里に向けながらずるずると座り込んでしまう。
智絵里はぼうんやりとしている。
その両手に握られている包丁が真っ赤に濡れている。
P「ちえり……おまえ……」
智絵里「プロデューサーさん……す、好きです……」
熱のこもったせりふで瞳を潤ませて智絵里が俺に覆いかぶさってくる。
P「あ、うぁ……」
ちひろ「プロデューサーさん! プロデューサーさん!?」
冷たい金属が俺の内臓を犯す感覚。
俺は冷や汗をだらだらと垂らして喘いだ。
P「ちえり……おまえ……」
智絵里「プロデューサーさん……す、好きです……」
熱のこもったせりふで瞳を潤ませて智絵里が俺に覆いかぶさってくる。
P「あ、うぁ……」
ちひろ「プロデューサーさん! プロデューサーさん!?」
冷たい金属が俺の内臓を犯す感覚。
俺は冷や汗をだらだらと垂らして喘いだ。
死ぬときはこんな死に方したい
智絵里「プロデューサーさん……ずっと、ずっと一緒にいてください……」
包丁を捨てて智絵里は俺の腹に口をつけてごくりと喉を鳴らした。
P「は、ぁ、はぁ、ふッ、う、あ、はぁっ」
智絵里「えへへ……♪ これで、智絵里も……いつまでも、一緒です……」
口を血まみれにした笑顔の智絵里が顔を近づけてくる。
包丁を捨てて智絵里は俺の腹に口をつけてごくりと喉を鳴らした。
P「は、ぁ、はぁ、ふッ、う、あ、はぁっ」
智絵里「えへへ……♪ これで、智絵里も……いつまでも、一緒です……」
口を血まみれにした笑顔の智絵里が顔を近づけてくる。
どうして。
なぜだ。
俺が悪いのか。
俺が間違ったのか、また。
最悪だ、最悪――
智絵里とのキスを最後に、世界がぐるりと回って暗転した。
なぜだ。
俺が悪いのか。
俺が間違ったのか、また。
最悪だ、最悪――
智絵里とのキスを最後に、世界がぐるりと回って暗転した。
美少女に殺されるとかご褒美やろ
死んだ男の頭を膝に乗せて少女がうすく笑っているシーンが突然野球中継に切り替わる。
友紀「おっしゃー! キャッツ勝ってるー!」
P「おい勝手にチャンネル変えるなよ!」
友紀「え? なに見てたの?」
P「なんかドラマ。まぁいいけど」
友紀「ドラマより野球でしょー! ほらほら、かっとばせーっ!」
P「いやちょっと待て、友紀今日洗い物当番だろ!」
友紀「えー? そんなことより今は応援だよー!」
P「しかたないなぁ友紀は」
友紀「いけぇーっホームラン!」
THANK YOU YUKKI END
友紀「おっしゃー! キャッツ勝ってるー!」
P「おい勝手にチャンネル変えるなよ!」
友紀「え? なに見てたの?」
P「なんかドラマ。まぁいいけど」
友紀「ドラマより野球でしょー! ほらほら、かっとばせーっ!」
P「いやちょっと待て、友紀今日洗い物当番だろ!」
友紀「えー? そんなことより今は応援だよー!」
P「しかたないなぁ友紀は」
友紀「いけぇーっホームラン!」
THANK YOU YUKKI END
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後ろには小さく震える智絵里。
前にはドアをはさんでまゆ。
くそ。
俺はもう一度苦った。
P「最悪だ……」
その言葉が、最近聞いたせりふと情景を呼び起こした。