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ドラッグ オン ドラグーン3 討鬼伝

花咲太郎「ぼく好みの美女を見つけた……」 灰原「……?」

1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:27:43.88 ID:0XRoBxNro
三代目花咲太郎、探偵三か条


  ・ 閃かない

  ・ 覆さない

  ・ 結論までショートカットで

  ・ ぼくが主人公の一人を勤める『クロクロクロック1/6』、全国の書店にて電撃文庫から発売中。好評かどうかは知らないけど。

元スレ:ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1345/13454/1345458463.html

2VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:28:17.13 ID:0XRoBxNro



ぼくがその美女と出会ったのは、8月某日。



とある浮気調査の依頼のために訪れた「米花町」なる町での事だった。


3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:28:49.03 ID:0XRoBxNro

「あー……っついなぁ」



じりじりと照りつける太陽と、その光を反射するジュラルミンケース、アスファルトから舞い上がる熱。その暑さたるや筆舌に尽くし難く、まさに夏真っ盛りと呼ぶに相応しい気温。

どの位筆舌に尽くし難かったかというと、このぼくが木曽川に「太陽を殺して下さい」とメールを送りかけてそのまま下書きに保存した、そんなレベルだ。ゲロ吐きてぇ。

加えて、喧しく啼き叫ぶセミの声と流れ落ちる汗がまた鬱陶しい事この上ない。



そんな感じに暑さから来る不快感に苛まれ、グダグダと煮立った思考のまま街中を歩くぼくの前に―――彼女達は現れたのだ。







―――夏の暑さと対比できるほど涼やかに整った顔の造形



―――小柄ながらも均整の取れた体つき



―――そして、ノースリーブから覗く白い腋







少しでも涼しい場所を歩きたいと、街中を流れる川に沿って歩いていたぼくは、その対面からやって来る彼女達の姿に思わず歩みを止めた。

何故ならば彼女の美貌は今まで出会ってきた女性の中でも最高峰―――そう、ぼくと共に暮らしているトウキ級のものだったのだから。


4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:29:17.06 ID:0XRoBxNro

年齢は恐らく6、7歳と言った所だろうか、女性として油の乗り始める年頃だ。

彼女の隣には友人と思しき活発そうな印象の女性が歩いており、それがまた彼女のクールな印象をより一層高めていた。そしてその女性自身もまた別ベクトルで整った顔立ちをしていて、美女の周りには美女が集まるのかな、なんて益体も無いことをぼんやりと思った。



そんな相反する二人の容貌は、合わせて陰と陽の関係性を思い起こさせた。太陽と月、でも可かな。



……ぼくは手に持ったジュラルミンケースを地面に置き、街道の手すりに肘を掛け川を眺める振りをしつつ―――そっと、彼女達の様子に目を向けた。





「ねぇ哀ちゃん! 早く帰らないとアイス溶けちゃうよ!」



「ドライアイスを入れてもらったんだから、そんなに慌てなくても大丈夫よ」





……どうやら、二人は買い物か何かに行った帰りのようだった。



太陽(活発そうな女性)は買い物袋に入っているらしきアイスが心配らしく、しきりに相方をせっつき。

月(クール系美女)はそんな太陽を苦笑しながら宥め、マイペースで歩いている。



ぼくはその様子を携帯電話を取り出して写真に収めたい欲求に駆られたが、ぐっと堪えた。 携帯電話のメモリーは既にトウキの写真とこれまでに偶然出会った女性の写真でパンパンだったことを思い出したのだ。

彼女達とぼくの距離からいって、二人の目を掻い潜り既存の写真を削除しカメラモードに切り替える余裕もなく、こんな事なら早く新しいメモリーカードを入れておけば良かったと泣きそうになった。実際涙がこぼれた。





……ならばせめて、彼女達の姿を僕の脳裏に焼き付けておこう―――

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:29:45.18 ID:0XRoBxNro

ぼくは悲壮な決意でもって顔を上げ、何時も被っている緑色の帽子を目深に下げ、全力の流し目で彼女達を瞳に写した。



眼球が痙攣し、視神経が千切れるかのような鈍い痛みが目の端に走る。しかし表情筋は欠片も動かさないように。多分その時のぼくは軽くホラーな表情を浮かべてたと思う。





「……! ……!」





あせった表情を見せる太陽と、それを慈母のような視線でもって優しく笑みを浮かべる月。 その表情見ていると、きっと彼女は良き母親になれると思った。



……しかし悲しいかな、世の法律は彼女の美しさを保ったままに母親と成らせる事を是としないのである。

彼女が結婚し、子を孕む事が許される時期になる頃には、既に彼女は結婚適齢期を外れた嫁き遅れの熟女と化してしまうのだ。まったくもって世界は悪意に満ち満ちている。





(だからこそ、ぼくはこの一瞬を記憶に焼き付けておかなきゃならない)





彼女を見る目に力が篭る。

そうして、ぼくが彼女達の姿を脳細胞に焼き付けているうちに、彼女達はぼくの背後を通るために視界の端から消えていく―――





……その、瞬間。







「―――」







ほんの一瞬。 ぼくが限界を感じて彼女達から視線をはずしたその刹那。



月の女性とぼくの視線が交錯した。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:30:21.46 ID:0XRoBxNro

「―――……」







思わぬ接触に動揺し、心臓がピッチを早めるけど―――態度や仕草には微塵も出さないよう勤める。



もし彼女達に不振がられて警察でも呼ばれてしまっては目も当てられない……いや、あの表情を見られていたらどっちにしろ終わりだけど、それは置いておく。





「…………」



「…………」





ぼくは不規則に刻む心臓を押さえつけ、(表向きは)自然体のままジュラルミンケースを拾い、そっと歩き出す。

もっと彼女達を眺めていたい、と悔しさが胸に広がるが、まぁ仕方が無い。視線に気づかれたらその瞬間で試合終了なのだ。やすにし先生の言は偉大なり、と。





「…………」



「…………」





そうして彼女達とすれ違い、そのまま何事もなかったかのように(実際何事もないし)お互い反対方向へと歩みを進めた。……そんな立ち去るぼくの背後から視線を感じた気もしたけど、気のせいだと割り切る。



美女からの視線を背に受けているというシチュエーションには心踊る物があるが、それに反応してしまってはまるでぼくが彼女達を視姦していた犯罪者のようになってしまうじゃないか。

もしかしたら好意的な視線だったりするかもしれない事を考えると血涙が流れそうになるが、いろんなフラグをスルーするのがぼくがぼくたる所以だからね。決してビビッテル訳じゃナイノーヨ。




7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:31:04.64 ID:0XRoBxNro

「……いまの……」



「え?……どうし……の?」





後ろから聞こえる会話に「やっぱバレてたかもー」逃げ出したくなるが、ここで逃げたら本格的に通報コースなので、歩く速度は保ったままで心なし早歩きでその場から立ち去った。



くそっ、女性を観察するのにも気を遣わないといけないなんて、何て生き辛い世の中なんだ。

じりじりと照りつける炎天下の下、ぼくはこの日本を支配する悪法に悪態をつくのであった。





「……はぁ」





もしあんな美女とお付き合いすることができたら、ぼくの人生はきっと今までよりも充実した物になるのだろう。

トウキがあと2年足らずで熟女へと退化してしまう事を考えれば、まだ老い先の長い彼女達に唾でも付けておけばよかったかもしれない。いやまぁ、物理的な意味でも付けたいところではあるのだが。





「……人生とは、ままならないものだなぁ」





そんな枯れた老人が今際の際に吐き出す様な言葉を口にしつつ、そろそろ大丈夫だろうとそっと振り返る。



ぼくの振り返った視線の先には、やはり仲睦まじく歩く二人の美女の姿。

……どうやらぼくの事を意識から外してくれたらしい、とほっと一息をついて、懐から古い機種の携帯電話を取り出す。今ならば誰に注目されることなく堂々と操作できるだろう。

どうせならあの美しい顔の映る真正面から写真に収めたかったが、しょうがないと諦める。代わりに帰ったらトウキに写真を取らせてもらう事で溜飲を下げることにしよう。



携帯電話のメモリーに入っている美女達の写真のうち、一番優先度の低いものを削除。 そして彼女達の後姿を激写。

よし、これでこの写真を見る度あの二人の姿を克明に思い出せるな。一つ頷き、ぼくは彼女達に背を向けて今度こそ振り返ることなく再び歩き出した。




8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:31:47.05 ID:0XRoBxNro

「まぁ、いい出会いではあったよね」





何でこのクソ暑い中こんな所まで遠征しなければならないのかと思っていたが、彼女達と出会えた事を考えれば、そう悪い事でもなかったかもしれない。



そう気を取り直して、依頼を果たすべく足を踏み出す。 美女と出会って気力回復、何て模範的な男性の姿だろう。 ぼくはこんなぼくの事が大好きだ。

そしてそのまま携帯電話を懐にしまい―――





「……あ」





ふと思い出し、木曽川に送るつもりだったメールを削除。 ふぅ、危ねぇ。 思わず奴の痕跡を残してしまうところだった。



今度こそ憂いは無くなったと電話をしまい込み、ぼくは仕事モードへと頭を切り替える。





「トウキへのお土産は何にしようかな」





仕事モード? ああ、いい奴だったよ。

ぼくはそんな浮かれた頭をぐらつかせながら、目的のマンションへとじっくりとっくり近づいていくのであった。









―――今しがたすれ違った美女が、一瞬だけぼくを振り返った事など知る由も無く。




9VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:32:38.22 ID:0XRoBxNro



―――正直に言おう。



この出会いより数十分後に起こった殺人事件、ぼくが一人の探偵の活躍を潰した出来事よりも、この時の一瞬の邂逅のほうが強く記憶に焼きついている。





血まみれの遺体よりも、涼やかに整った顔が。



生意気な男子小学生よりも、美しい小柄な体躯が。



犯人の必死の形相よりも、ノースリーブから覗く白い腋が。





人間、誰しも嫌な事よりもいい出来事を覚えていたいはずだ。 それが美しい美女の事であるならば尚更ね。







―――何故ならば、ぼくはロリコンであるのだから。


10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:33:28.24 ID:0XRoBxNro



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「……今の男、私を探っていた―――?」











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13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:49:05.46 ID:0XRoBxNro



ぼくの名前は花咲太郎、犬や猫の捜索が専門に近い……いやもう専門にしたい、専門にさせて下さい、まぁそんな感じの探偵だ。



自慢じゃないけど、トウキという13歳のとっても可愛い女の子と同棲中。

殺人事件を引き寄せた挙句にその犯人を直感のみで特定できるという難儀な性質を持っていることが玉に瑕だけど、ぼくがベロベロ舐めて治すつもりだから気にはしていない。



二月に一度あるかないかの浮気調査の依頼が大事件となる極々小規模な探偵事務所に勤めて、毎日昼夜問わずに犬猫の捜索に明け暮れている。

……というか、明け暮れたい。 いやね、思うんだけどさ、最近のぼくはどうも何だか変な方向に向かっている気がする。



ぼくは二代目花咲太郎のように、しっかりと地に足が着いた殺人事件とは無縁の地域(ぼくの場合は15歳以下の女性限定)密着型の探偵になりたいと思っている。

名誉も名声もいらない、犬猫探しが本職で良いんだ。





だから、殺人事件に遭遇したり、殺人鬼と知り合ったり、殺人鬼と殺しあって人差し指をポキポキされたり、殺し屋と知り合ったり、グロ系の殺人事件に巻き込まれたり、火かきマンに殺されかけたり、殺し屋と腐れ(きった納豆の糸の様な)縁もどきになったり。





そんな「殺」の一文字が飛び交う不穏当且つ波乱万丈な展開はノーセンキューなわけである。

まぁトウキと一緒に居る事を決めた時点である程度の覚悟はしていたけど、なんというか、些か度が過ぎているのではなかろうか。



もはや彼女がどうとかじゃなくて、僕自身にも何らかの問題があるのかもしれない。




14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:49:48.26 ID:0XRoBxNro













―――目の前に転がっている死体を見ていると、ぼくは心底そう思う。






15VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:50:20.48 ID:0XRoBxNro



「……勘弁しちくりー」





トウキはこの場に居ないはずなのにネ! いやんなっちゃう。



ぼくは乾いた溜息を一つ吐き、帽子を目深へと押さえつけ、心臓の鼓動を沈めることに勤める。

中途半端に開け放たれたマンションのドアを閉め、閉じられたその正面に背を預け、愛しのトウキの姿を思い浮かべて大きく深呼吸をした。





「出て来るならアナウンスくらい入れてくれよ……」





そう呟いて、ぼくはドアに背を預けたままズルズルとしゃがみ込んだ。



……これまでの事件で幾度と無く人間の死体を見てきたぼくであるけれど、慣れる事はあっても平静で居られる事は無い。

どんな人間でも、流石に何の予防も無くいきなり血だるまの死体を見せられて驚かない人は居ないだろう。

ぼくには殺人を生業とする鬼と屋の知り合い(何でこうなったのかねぇ)が一匹ずつ居るけど、そいつらだってこの状況に陥ったら目を丸くするくらいはするはずだ。





「うぁー、帰りてぇ」





どこに? ロリコン的な酒池肉林のパライソへ。 行った事無いけど。

心臓の鼓動がある程度収まった後、ぼくはこの後に起こる厄介事を予測し、うだるような声を上げた。



……まぁ、直接手を下す事は警察への通報しかないんだけど―――……え? 現場保存? 周辺住人への聞き込み? 知らねぇよそんなの警察に任しとけよ。



ぼくが言いたいのは、そういう面倒な手順を踏む行動からくる厄介ごとじゃない。


16VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:50:59.46 ID:0XRoBxNro



「…………」





目深におろしていた帽子を被り直し、立ち上がって意を決してドアを開ける。

目に映るのはベージュ色の壁と、茶色の靴箱。そして血塗れで倒れている死体の姿。



よく見てみると床の上には、元は靴箱の上に置かれてたらしきリボンをつけたネコのぬいぐるみが散乱しており、この場で何か争いがあった事が伺えた。





「……もしもし?」





本当は死んでいなかったら良いんだけどなーと甘い希望を抱いて呼びかけてみたけど、やはりと言うべきか返事はなく。目の前で転がる彼はしっかりがっつり死んで居た。真に遺憾である。



体の方は何か刃物で滅多刺しにされたらしく、上半身が真っ赤に染まっていた。 はみ出た内臓とかあまり見たくないので、そこにはあまり注視しない。



目の前で殺されて居る人間だったものは、見た限りでは30台から40台にかけての男性。肩にかかる程度の長髪を明るい茶髪に染めていた。



その表情は恐怖と嘆きに醜く歪んでおり、それに付随して鼻と口の周りは流れ出た体液によってぬらぬらと光っていた。

きっと平時ならば割かしイケメンだった事が伺えるだけに、その酷い死に顔は同じ男として同情を禁じえなかった。かわいそうに。





「……やっぱり、そうだよねぇ……」





呟いて、後ろ手にドアを閉めた。 クーラーはついていない様だったが、日の光が差さないせいか外よりは涼しかった。





「………………」





ぼくは死体に触れないよう玄関の端っこに移動し、手に持っていたジュラルミンケースを床に置いた。



そして鍵を開けて、今ぼくが請け負っている浮気調査の資料の入ったファイルを手に取る。その中から一枚の写真を取り出し、仰向けに転がっている死体の頭と並べてみた。

するとどうだろう、綺麗なイケメン面をした写真の中の男と、その隣の苦しみの表情を浮かべた男とで劇的ビフォーアフターが完成してしまったじゃないか。


17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:51:47.14 ID:0XRoBxNro

「……何という事でしょう」





匠の手によって、そこそこなイケメン面がこんなにも醜い顔に! なんて言ってる場合でねーよ。



そこに作り出された光景は、ぼくの気力を大きく奪い去っていく。 今日ここに来た意味は何だったのだろうか、と。



……ぼくは認めないといけないのだろうか、この二つの物体は同じものであると。





「………………………………………」





そう、ぼくの目の前に転がっている死体。と、写真に写っている人物。それは依頼人の命により今まさに探ろうとしていた、浮気疑惑の被疑者であったのだった。



被疑者が被害者にジョブチェンジ、字面は似ているはずなのに何故こんなにも違うのだろう。





「……ヴぁー」





調べるべき対象が既に死亡していた場合、これから行うべき筈だった浮気調査はどうしたらいいのだろう? ぼくわかんない。

打ち切りか、続行か。それを決めるのはぼくでは無いんだろうけど、調査の対象が死んでしまった現状、一体何が出来るというのか。



浮気調査までならぼくの領分であったのだが、殺人事件となるとこれより先は警察の領分だ。

一介の(うだつの上がらない)探偵など瞬く間に弾き飛ばされてしまうだろう。





しかもこの死体は明らかに他殺体と分かるような有様で亡くなっている。 怨恨の線がある以上、彼が生前抱えていた人物関係など彼らにかかれば容易く丸裸コースだ。

うだつの上がらない探偵一人と、みんなの味方ポリスメン(ズ)。 このまま調査したところでどちらが早く真相にたどり着くか等、火を見るよりも何とやら、だ。



依頼人が関係者というのも厄介である。重要参考人として警察に招かれる事となるだろうし、その時に浮気の事についても根掘り葉掘り質問され、またそれに関わる情報も聞かされる可能性がかなり高い。





このまま行けば、ぼくはに何も出来ないままで自動的に依頼は収束するだろう。 依頼料なぞ請求できる訳が無い。



…………ほんともう、どうしようかなあ。

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:52:24.64 ID:0XRoBxNro



「……また飛騨牛にネチネチ言われるよなぁ、これ……」





探偵なら殺人事件の一つでも解決して警察を出し抜いて見せろよ!! とか言われそうである。 あーやだやだ。



ぼくはこのまま部屋を去って見なかった事にしたい衝動に駆られたが、一応これでも花咲太郎の名前の頭には『善良な』と『小心者』が引っ付いていると自負している。

これから起こる殺人事件は自分に害が無い限り見逃すけど、流石に目の前にある死体を見ない振りできる程図太くは無いのだ。



探偵として何か間違ってる気がしないでもないが、ぼくは犬猫探しが専門の閃かない探偵だから、しょうがないね。





「……助けて、毛利せんせー」





ぼくはこの町に居るはずの名探偵の名を呼びながら、どうしてこうなったのだろうとボンヤリした思考を巡らせ始めたのだった。









……ああ、警察も呼ばないといけないのか。気が重い。



ねぇそこの死体君、きみ自分で警察を呼んでみるガッツとか無い?


19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:53:01.60 ID:0XRoBxNro



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事の発端は今より1日程前。



世間的には日曜日と表記するその日に、ぼくの所属する神守探偵社に一人の女性客が訪れた事から始まった。


20VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:53:27.79 ID:0XRoBxNro



その日のぼくは受け持っていた迷い猫探しの依頼もひと段落し、ほっと一息。新しい仕事が舞い込むまでのフリーの時間を、クーラーの効いた事務所内で満喫していた。暇だったと言い換えてもよし。



同じく暇を持て余していたらしい同僚のエリオット(年齢不詳、まるで宇宙人のような水色の髪と目を持つ超絶イケメン男)と紙相撲をして遊んだり、木曽川か ら送られてくるメールを片っ端から削除したり、それなりに不毛な時間を送っていたことは覚えている。所長こと飛騨牛は外出中だ。

ちなみに紙相撲の力士の名前はそれぞれ「ペド利山」と「ジョジョの富士」。少なくともぼくの力士は一目瞭然であろう。



始めこそ惰性で始めた暇つぶし程度だったのだが、何故か一試合ごとにヒートアップ。土俵を叩く音がトントンからドンドン→ドムドム→ダンダン→ズダダダダと進化していった。

そうして最終的に叩く対象がお互いの顔面にシフトしたその時に、件の彼女は現れたのだ。





『すいません、依頼をお願いしたいんですけど……』





緊張しながらそう切り出してきた女性の年齢は二十台半ばくらいであり―――まぁ、そのほか特に特筆する程に特徴ある名前も顔立ちもしていなかったので、熟女依頼人と表記しよう。 一々考えるのも面倒だしね。



その依頼の内容は、浮気調査。 この神守探偵社において数ヶ月に一度あるかないかの大事件である。

ぼく達二人は、机の上に置いてあったペド利山とジョジョの富士を椅子の脇に設置してあったゴミ箱にそっと放り込んだ。


21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:54:04.49 ID:0XRoBxNro



『私には、結婚を約束した恋人が居るのですが―――』





彼女は語る。



何でもその恋人は今働いている職場の先輩に当たる人であり、入社当初に優しく指導してくれた時から好感を抱き、つい半年ほど前に告白し交際が始まったそうだ。

仕事が忙しく、二人きりで会う時間はなかなか取れなかったけどお互いを思う気持ちは本物で……惚気話が続いたのでこれより先は割愛。 何が嬉しくて結婚適齢期過ぎの女性による爛れた恋愛話を聞かなきゃならないのだろうか。



浮気調査という大口の依頼であったため、ぼくは表面上は真摯な表情を作って相槌を打っていたけれど、内面ではトウキに作る結婚指輪のデザインを思い描いていた。

隣に座るエリオットもぼくと同じような表情だったけど―――こいつの場合はその性格の良さで本当に真面目に聞いていたのだろう。





『年の差はありましたけど、お互いに愛し合っていたと思っていました。ですが……』



『……その関係に、ヒビが入ってしまった?』←エリオット



(トウキのお指ペロペロしたい)←誰だろうね



『…………残念ながら』





詳しく聞くと、大体今より一ヶ月前くらいからその交際相手の男性の挙動がおかしくなって来たらしい。





自分と会う時には何時も浮かべていた笑顔が、何か煩わしい物を見るような表情に変わった。



二人きりで会う約束も何かに付けて引き伸ばしにし、メールも電話もかけてくれなくなった。



挙句の果てには職場で顔を合わせても目を合わせてくれず、話しかけても、問い詰めても無視されるようになった。



そしてとどめに、自分以外の女性と親しげに連絡を取り合っている姿を目撃してしまった……。





『きっと、私はもう捨てられているのでしょう』





そう言って、熟女依頼人はそっと目を伏せた。

女性が浮かべる憂いを帯びたその表情。エリオットはその様子に痛ましげな視線を向けていた。


22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:54:34.94 ID:0XRoBxNro



『別に、捨てられてしまった事についてはもう良いんです。 自分なりに飲み下しましたので。



……ですが、彼が何も言ってくれないまま、何も知らないままで終わるのだけは嫌なんです』





熟女依頼人は最後にそう締めくくり、再び浮気の調査をぼく達二人にお願いして、深く頭を下げてきた。





『お願いします、どうか私に真相を教えて下さい―――』





……勿論、その答えは肯定だ。





聞いた話と齎された資料、そしてや彼女の印象から法律を違反する危険な依頼だとは思えなかったし、何度も言うが浮気調査はぼくたちにとってはとても大きな仕事なのだ。 断る理由なんぞ無い訳で。



熟女依頼人が頭を下げている隙に、ぼくとエリオットは数秒だけ視線を交わす。

ぼくは頷きを一つして、エリオットは親指を突き出した。





『謹んで』『お受けしましょう』






23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:55:25.32 ID:0XRoBxNro



そしてぼく達が捜査するに当たって必要な事柄を2、3質問し、彼女が帰宅した後、早速ぼく達は依頼へと取り掛かった。



まずは調査対象の詳しいプロフィールから拝見する事にする。





調査対象の名前は……後の有様からとってビフォーアフターとしておこう。 だって一々考えるのとかめんど以下略。



年齢は38歳、身長は177cm。顔は10人中4人がイケメン、残りが普通と評するような微妙なレベルのイケメンだ。



熟女依頼人と同じそこそこ大きな外資系企業に勤めているそうで、その職業柄出張が多く二人揃って会社で仕事をする時間は少なかったそうな。



ビフォーアフターは元は米花町という町に住んでいたらしく、転勤によって今の会社へと移動。 米花町にある自宅マンションから電車通勤しているらしい。





『どうやら、今回は二つの視点から調査を進めていく必要がありそうだ……まったく、難儀だとは思わないかい?』



『浮気調査って大体そんなもんじゃなかったっけ、今までも職場と住処周りから突付いてた訳だし』



『ノリが悪いなぁ太郎君は、もう少し探偵らしく進めようよ』



『依頼人が美女だったら義憤に燃えてやる気も出たんだろうけどねぇ』





相手が消費期限切れじゃ格好を付ける意味も薄いよねぇ。



そう答えるぼくにエリオットは「まったくしょうがないなぁのび太君は」とでも言いたげな仕草で肩をすくめ、机の上にメモ帳を取り出し資料の内容を写し取り始めた。



ぼくも彼に習ってメモ帳とボールペンを取り出して写し取りを始める。どうせなら資料そのものをコピーしてしまえば手っ取り早いのだろうが、事務所のコピー機は生憎絶賛故障中なのだ。

近所のコンビニでコピーを取ることも一瞬考えたけど、流石にどうかと思ったので重石を付けて脳みその中に沈めておく。



そうしてしばらくカリカリという音が響く中、先に書き終えたらしいエリオットがメモ帳を懐に仕舞い込みつつ顔を上げた。





『さて、どうする?』



『何が?』



『いや分担の話。職場に行くか、それとも……こめはな町?の方に行くか、どっちが良い?』



『それ、多分べいか町って読むんだと思うけど』



『あ、そうなんだ。じゃあそっちよろしく』



『へいへいへーい』





意味が分からない、何が「じゃあ」なんだよこの水色宇宙人。

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:56:06.84 ID:0XRoBxNro



『いやあ、私は曲がりなりにも外人さんだからね。この慣れない日本の暑さ中、知らない町まで遠征するのは遠慮したいんだ』



『ならなんで最初に聞いたんだよ』



『いやあ、私は曲がりなりにも心は日本人だからね。発言には民主的な感じを取り入れてみようと思ったんだ』



『ぼくの意見を聞く前に決めた気がするんだけど』





相変わらずコロコロと国籍を使い分ける男である。



ぼくは胡散臭い笑顔を浮かべる宇宙人を同じく胡散臭い笑顔で迎え撃ち、イケメン度の判定負けを喫しそっと目を逸らした。

まぁ、別に良いさ。暑い外界に長時間外出したくないのはぼくも同じではあるが、仕事と言い訳すればまだ我慢できる。



そう自分に言い聞かせ、ふぅ、とため息を吐いた。





『……分かったよ、ぼくは米花町の方に行くから、職場のほうを頼む』



『流石は太郎君だ、私は信じていたよ、君はできる子だと。あ、あとお土産よろしくね』



『わはははははははは』





笑顔の耐えない職場です。誤字ではないと言っておこう。



……しかし、米花町、ねぇ。

米花町といえば、かの有名な殺人事件専門の名探偵、眠りの小五郎こと毛利小五郎の住む町だったはずだ。



我らが探偵界隈(あるのかどうか知らんけど)じゃ、行ってみたい町ランキング一意に輝く場所と言ってもおかしくない、名探偵の守護する町。

犬猫探し専門の探偵のぼくにはあまり関係ないだろうけど、パワースポット的な何かがあって、そのご利益で少しは閃く様にならないものか。ぼくだって、まるで漫画の中みたいな名探偵にはちょっぴり憧れる物があるのだ。



そんな妄想を浮かべつつ、ぼくは数枚ほどあったビフォーアフターの写っている写真のうち、一番写りの良い物をファイルへと挟んだ。

そしてぼくに続いて二番目に写りの良い写真をメモ帳に挟み込んだエリオットは、安物のスチール机に立てかけておいた黒い鞄を手に取り、立ち上がった。





『さて、私は早速職場の周辺に聞き込みに行こうと思うが―――太郎君はどうする?』



『今日は大人しく留守番しておくよ、日曜日だしね』

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:56:47.01 ID:0XRoBxNro



先程の熟女依頼人も仕事が休みだからぼくの元に来たのだ、同じ職場のビフォーアフターも休みであると見ていいだろう。依頼人にも確認したのでまず間違い無い筈だ。



つまり調査対象が家に居る可能性が高いのだ。仮に居なくても何時自宅に帰ってくるか分からない状態で周辺に聞き込みや張り込みをするのは少々リスキーだと言わざるを得ない。



ならば今日のところはエリオットの調査を待ち、予め何がしかの情報を得た上で行動の予定を組んだほうが良いだろう、というのがぼくの判断だ。

まぁ、僅か一日で有益な情報が手に入るとは思えないけど、こいつの甘いマスクならば、休日出勤の女性辺りからビフォーアフターの大まかな行動パターン位は引き出せそうな感じではある。





その考えを告げると、エリオットは「流石だなぁ出来杉君は」とでも言いたげに笑顔を浮かべて「では行ってくるよ」

これから暑い太陽光線を浴びに行くとは思えない快活な足取りでドアの前まで行き、そのノブを掴みつつぼくに振り返ったのだった。





『私は何らかの情報を持ってくるから、太郎君はお土産を忘れないでくれよな』



『わはははははははははははは』




26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 19:57:43.16 ID:0XRoBxNro





********************************







そうして次の日の朝9時半、朝一番で米花町にやってきたぼくは、思いがけない美女との出会いにウキウキ気分。

昨日エリオットが調べてきてくれた情報(お土産の催促と一緒にメールで送られてきた)から、ビフォーアフターは朝の7時までに出勤することが分かっていた。



なので浮かれた気分のままスキップしつつ彼のマンションまで辿り着き、彼の部屋のある二階まで上がり位置を下見した。 そう、ここまでは良かった。 良かったんだ。



……しかし彼の部屋の前に立ったぼくは一つの違和感に気がついてしまった。 部屋のドアが中途半端に開いていたのだ。



今から考えればこの時点で不穏な空気は漂っていたのだが、その時のぼくは美女の事ばかりが先行してそれに気づけなかったのである。ガッデム。

そしてそれがふと気になったぼくは、何か調査の手がかりにならないかなーと好奇心の赴くままにドアの隙間から内部を覗いてしまい―――こうして、ぼくはビフォーアフターの死体の第一発見者と相成ってしまったのであった。


27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:58:23.13 ID:0XRoBxNro



「…………はぁ」





昨日の内、若しくは死体が発見されてから来れば良かった。 どっちにしろ調査にはならなかったろうけど。



ぼくは後悔と共に脳裏に浮かべていた回想を打ち切り、帽子の位置を直しつつ目を開いた。途端に視界へ真っ赤な死体が飛び込んでくるけど今回は特に驚きもせず、立ち上がる。

そうしてファイルをしまったジュラルミンケースを持ち上げて、ドアノブを掴み、部屋の外へと歩き出す。



流石に警察を呼ぶのに死体と睨めっこしながら、というのは御免だったのだ。 悪いねビフォーアフター。





「あっちーなぁ」





外に出ると同時、ぼくの体にむわっとした熱気が絡みつく。とりあえずこれはトウキの吐息だと思い込んでみたけど、本人の姿がない以上うまくいかずにやはり不快なままだった。



天から降り注ぐ日の光が体を焼き肌の中のメラニン色素を溶かしていく中、ぼくは部屋の前にある手すりに肘を突き、懐から携帯電話を取り出した。

日光に炙られた手すりはフライパンのように熱かったけど、何となく体を包む熱気がそこに吸い取られている気がしてそのままで。



折り畳み式の携帯電話、その待ち受け画面に映っているトウキの姿に目じりを細め、目減りしていた気力を充填。 親指を『110』の最初の数字に乗せて、





「…………」





……とりあえず警察より先に、今も調査を進めているであろうエリオットに連絡することにした。 依頼が無駄になるかもしれないと伝えておかないとね、まったくエリオットはぼくみたいな同僚を持てて幸せだなぁ。



まず最初に電話で伝えようとしたけど留守電になっていたのでメールに方向転換。 ビフォーアフターが死体となっていた事と、依頼自体がなくなる可能性がある事を書いて送っておく。

何となく、警察よりも先に秘匿するべき情報を他人へと発信できた事に不謹慎な優越感を感じた。



そうして画面に表示された『メールを送信しています』の文字を眺めつつ、ぼくはやれやれ一仕事終えたぜぇ的な雰囲気をかもし出し、今度こそ警察に通報するべく110と番号を押し込み―――

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:59:07.69 ID:0XRoBxNro







その時だった。






29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 19:59:35.57 ID:0XRoBxNro





「―――ねぇお兄さん、何してるの?」







「……うん?」





不意に横合いからかけられた声に、ぼくの指が止まった。



その声は高く幼げで、もしかしてぼく好みの女性かとほのかに期待しつつ、なるべく格好をつけた仕草で首を声のした方角へと傾ける。関係ないけど幼毛ってインモラルな感じしない?

するとそこには今朝あった女性と同じくらいの年齢の眼鏡をかけた少年が立っており、ぼくの事を笑顔で見上げていた。期待はずれだった、残念。

スケボーを嗜んでいるのか、お尻の部分にブースターの様な物をくっつけたスケートボードを抱えていたのが特に印象に残った。



……というか誰だろう、この子供。今は夏休みの期間だから子供がこの時間にここに居ても別段おかしなことではないけど。





「……別に、何もしてはいないかな?」





困惑混じりに返事を返す。

この部屋に死体があったので、警察に連絡しようとしてましたー。などと馬鹿正直に子供に向かって言えるはずもなく、嘯いた。



その際、年齢的にはOKだったのだが女性でなかった事に落胆を感じていた事もあり、意識せず声色がざらついてしまう。

少年はそんなぼくの声に滲む不機嫌さを感じ取ったのか、一瞬だけ目を細めてこちらを伺うような表情を見せた気がした。ちょっと悪い事をしたかもしれない。反省。





「ああ、ごめん。さっきちょっと嫌なことがあってね、気分が立っていたんだ」





とりあえずぼくはそう謝って、携帯電話を懐に仕舞い込んだ。流石に子供の前で死体を発見したと通報するのは憚られたのだ。



……本当にこの子は一体誰なんだろう。多分このマンションに住んでいる子なんだろうけど、どうしてぼくなんかに話しかけてきたのやら。

ただ電話をかけようとしていた青年の何処に子供の気を引く要素があったのだろう、まったくもって理解不能だ。



どうせ気を引くなら美女からの気を引きたいのに、引っかかるのは男ばかり。泣けるね!


30VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 20:00:19.52 ID:0XRoBxNro



「ううん、別に気にしてないから大丈夫だよ」





少年はそう言ってにっこりと笑みを取り戻す。これで女の子だったらよかったのになぁ。

ぼくはその少年の様子に何となしに安心し、ドアの向こうの死体のことを一瞬忘れかけ―――





「でも、嫌なことって何があったの?」





同じく一瞬で思い出させられた。空気読みなさいよ少年。何か馴れ馴れしいな少年。

思わず緩みかけていた頬が引きつり、目線がほんの僅かな時間ドアの方向に向きかけた。





「……はは、別に大した事じゃないさ」



「ふーん……?」





ぼくは少年に悟られまいと無理矢理目線を元に戻したけど―――その眼球の動きは彼の持つ観察力に引っかかってしまったようだ。

少年を見てみれば、眼鏡の奥にある細く眇められた鋭い瞳がドアの向こうへと続いていた。





「…………」





……嫌だなぁ、その先に興味とか持つのは止めてほしいなぁ。



最近は何となく麻痺している感があるけど、ぼくだって一応は人並みの正義感ぐらい持っているのだ。小さな子供が血塗れの死体を見てトラウマを背負う光景はあまり見たくない。

今では殺人に慣れきっているトウキという例だって、話を聞く限りでは最初に死体を見たときは混乱状態に陥った様だし―――いや、それは被害者が母親だったという件も関係しているかもしれないけど。



とにかく、この少年だってきっとそうだ。こうやって見る限り何だか随分と落ち着いた印象を受けるけれど、あんなグロテスクで真っ赤っかな死体を見てしまっては取り乱してしまうに違いない。

……そして同時に、心にある程度の歪みが生じてしまうのだ。



その嫌な未来予想図にげんなりしたぼくは、少年の意識をそこから離れさせるために、意図的な無駄話へと興じる事にした。

ごほんと咳払いを一つして、話しかける。


31VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 20:00:55.40 ID:0XRoBxNro



「で、だ。 少年君、君はぼくに何か用で―――」



「―――よっ」



「も?」





前言撤回、この少年が落ち着いているなんてとんだ勘違いだ。



気づけば彼は油断しきっていたぼくの脇をすり抜け、ビフォーアフターが地面とほっぺたをくっつけて涼んでいる光景を遮っているドア先輩の下へと駆け寄っていた。

まったく走り出す予備動作を見せずに駆け出したその身のこなしは、木曽川が人を[ピーーー]際の動きとある種の共通点を―――なんて暢気に実況している場合か!



「おおおぉぉちょっ」反射的に手を伸ばすが、少年は驚異的な反射神経でそれを回避。伸ばした左手は虚しく中を掻き毟る。

そうして元よりぼくと部屋までの距離が殆どゼロに等しかった事もあり、少年は容易くドアの下へ辿り着き、そのドアノブを握りこんで、





「やめ……!」





ぼくの必死の制止を無視して、その扉を開け放ったのだった。

せっかく珍しく男のために動いてやろうと思ったのにね。ヤメテー。


32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:01:59.68 ID:0XRoBxNro

※訂正









「で、だ。 少年君、君はぼくに何か用で―――」



「―――よっ」



「も?」





前言撤回、この少年が落ち着いているなんてとんだ勘違いだ。



気づけば彼は油断しきっていたぼくの脇をすり抜け、ビフォーアフターが地面とほっぺたをくっつけて涼んでいる光景を遮っているドア先輩の下へと駆け寄っていた。

まったく走り出す予備動作を見せずに駆け出したその身のこなしは、木曽川が人を殺す際の動きとある種の共通点を―――なんて暢気に実況している場合か!



「おおおぉぉちょっ」反射的に手を伸ばすが、少年は驚異的な反射神経でそれを回避。伸ばした左手は虚しく中を掻き毟る。

そうして元よりぼくと部屋までの距離が殆どゼロに等しかった事もあり、少年は容易くドアの下へ辿り着き、そのドアノブを握りこんで、





「やめ……!」





ぼくの必死の制止を無視して、その扉を開け放ったのだった。

せっかく珍しく男のために動いてやろうと思ったのにね。ヤメテー。


34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:15:21.01 ID:0XRoBxNro



**********************************







ワンワン泣く。



ギャンギャン泣く。



ビビって一目散に逃げ出す。



正直言ってぼくは少年が取る行動をそのどれかだと思っていた。





「……………………」



「……………………」





しかし実際はどうだろう。少年は泣くこともビビる事も取り乱すことも無く、冷静にビフォーアフターを―――刃物で滅多刺しにされた遺体を観察しているではないか。



流石にドアを開けた瞬間は驚いた表情を見せていたが、それだけだ。今現在はしゃがみこんでそれはもう本格的に検分している。

首筋に指を添えて脈拍を確認したり、全身をくまなく観察したりと手馴れたものだ。ほんと何者だよこの子、あとで警察に怒られても知らないぞ。





(うーむ、少年の心に傷が付かなかったようで何より……と喜べるのか、これは?)





てっきり幼気な少年の心に傷跡が付けられる瞬間を目撃してしまうかと思っていたのだが、この反応は予想外である。関係ないけど幼気ってインモラルな感じしない?



ぼくは彼に伸ばした手はそのままに、一体どうすればいいのかと立ち竦んでいた。

少年が特に動じた様子を見せない以上、ぼくが彼を止める理由は無くなった訳で。あ、人道的にどうなんだという批判は受け付けません。ぼくは既にトウキ関連で色々とやらかしているので。



動じない少年と、動けないぼく。この場には奇妙で微妙な雰囲気が辺り一帯に漂い、何かモヤモヤとした空気をぼくらの体に擦り付けていた。

実際は1分も経っていなかったのだろうけど、ぼくの体感としては1時間とか2時間ぐらいに長く感じたね。それほど重い空気が漂っていた訳ですよ、はい。



……そうして何時までも続くかと思われたそんな時間を終わらせたのは、やはり件の少年だった。

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:16:05.50 ID:0XRoBxNro



「……この人、一体どうしたの?」





思う存分遺体の観察をし終えたのか、少年はこちらを振り向き例によって鋭い目をこちらに向けてきた。

ぼくはその言葉に思わずぽかん、そして言葉の意味を理解し終えると同時、焦りが心中に生まれたことを自覚する。





―――やっべぇ、すっげぇ怪しいわ、ぼく。





死体のある部屋の前にいて、嫌な事と聞かれてその部屋に視線をやって、少年がドアを開けようとした時に焦って止めた花咲太郎。

いやはや、自分で言うのもなんだけど状況的には殺人犯以外の何者でもなくね? 笑えねぇってばよ。



そうしてそんな疑惑を向けてきた少年は、何故かしゃがんだまま踵の辺りと腰元に手を当てていた。そのポーズの意味は分からないけど、こちらを警戒している事だけはすごく良く分かる。

おそらくだが、それは少年なりの逃げるためのクラウチングポーズの様な物なのだろうと推測する。こちらが少しでも不審な行動を取れば即座に逃げ出すつもりなのだろう。





―――が、しかし、だ。





少年はそれでぼくを揺さぶっているのかもしれないが、その程度の事じゃ我がデモンベイン的な精神は崩れない。

伊達にこれまで法律に抗い少女達を視姦してきた訳じゃないのだ。焦った時の平静の取り繕い方はそれはもう良っっっっく熟知している。





「さぁ? ぼくも今さっきそれを見つけたばかりだからね、良く分かっていないんだ」





エリオット式の胡散臭い笑顔をでもって心中の焦りを押しつぶす。



その際、伸ばしたまま固まっていた腕を流れるような自然さで帽子へと添え「やれやれだぜブラザー」みたいな感じで肩をすくめた。

ちょっと芝居がかった感じがしなくも無いけど、少年のような年頃の子供にはこういった少々漫画的な仕草が案外好感を持たせてくれる物なのだよ。


36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:16:43.57 ID:0XRoBxNro



「じゃあ、何でそんなに落ち着いているの? もし死体を見つけちゃったら、普通は取り乱して警察とか呼ぶのに必死になるんじゃないの?」



「ははは、まぁ死体を見るのはこれが初めてって訳じゃないからね、驚きはするけど取り乱しはしないさ」





いや本当にね、実際死体を見ても「ああまたか」で済んじゃうようになるよ。

死体の損傷具合では気分が悪くなることもあるけど、それだけだ。





「警察だって呼ぶつもりだったさ、さっきだって少年君が来なければ呼んでいたと思うよ」



「何で僕が居ちゃ駄目だったの?」



「そりゃあぼくはこれでも善良な一般市民だからね、子供の前で人が殺されましたなんて言える訳無いだろ?」





今は言っちゃってますけどね、我が身可愛さで。善良(笑)。

そう答えると少年は、何か見落としていたものを発見したかのような顔をして赤面、ごほんと一つ咳払いをした。まぁ、次の瞬間には元の鋭い視線に戻ってしまった訳だけど。





「ふーん……それじゃあ、死体を見慣れるようなお兄さんの職業って―――」



「―――こっちも聞きたいんだけど、君はどうなんだい?」





慌てて突っ込んだ。危ない危ない。



もしこのまま職業のことを突っ込まれて、ぼくが探偵だという事を知ったら、また中村青年の時のような面倒くさい事になるかもしれない。

先程の死体の検分や、逃げずに犯人(疑)のぼくを問い詰めている態度からして少年も探偵願望があるみたいだし、下らない感情から状況を引っ掻き回されるのはご遠慮願いたいところだ。


37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:17:31.67 ID:0XRoBxNro



「……どう、って?」



「君だってビフォーアフターを―――あの死体の事ね、を見たにしては随分と落ち着いているように見えるけど」



「それは……」





僕の質問を受けて、少年が言葉に詰まる。おや、苦し紛れの言葉にしては割りといい所を突いたかもしれないな。



……冷静に考えてみれば、確かにかなりおかしいよな。ぼくだって最初に他殺体を目にした時は気が動転して混乱したものだ。しかし、この少年にはそれが無いのだから。

加えて殺人犯(疑)が目の前に居るというのに、まったく怯える事無くむしろ睨み付けて来るのは一体どういう了見だ。普通は少しでも神経を逆なでしないようにへりくだる物じゃないのか、少なくともぼくはそうしたぞ。



とりあえず口に出した勢いのまま続ける。





「しかもあんなに血塗れの死体を見て、怯えるでもなく検分までして見せた。到底、死体を初めてみた子供ができるような事じゃないよね」



「…………」



「君の方こそ一体何者なのかな?」





まぁ、ただの格好付けたいだけの子供なんだろうけどさ。少年探偵なんて漫画の中にしか居ないのよ。



だがしかし……何だろうね、この空気は。まるでその漫画の追求シーンみたいじゃないか? ワクワク。

何となくテンションが高揚するぼくにそう問いかけられた少年は、何も答える事無くただこちらを睨み付けた。何で睨むのか意味が分からん。





「……………………」



「……………………」





少年はぼくを睨み、ぼくは少年に作り笑いを向ける。



そんなピリピリとした雰囲気の中で、ぼくはふとこの状況に疑問に思った。

ぼくはただ浮気の調査に来ただけだというのに、死体を見つけて、子供相手(例え15歳以下でも男なら子供だ)に真剣に言い訳したり。何やってるんだろうねぇ。




38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:18:32.05 ID:0XRoBxNro



「…………はぁ」





何か急に馬鹿らしくなって、ため息が漏れ出た。投げやりな気持ちのまま右手で帽子で目元を隠すように押さえ、残った左手を懐に突っ込んだ。



「……っ」その空気を無視した突然の行動に、少年が息を呑んだ音が聞こえた。同時に、何かをキリキリと回すような音も。

ぼくはそれを少年が逃げ出すために身をよじり、踏んでいた小石を踏みにじった音と判断し、無視。取り出した携帯を顔の横に持って行き、ぷらぷらと左右に振った。





すなわち。









「警察、呼ばない?」



「……は?」









―――ぽーん、ぽーんと。





何処からか飛んできたらしいサッカーボールが足元に転がってきて、ぷしゅっと空気が抜けていったのだった。













**********************************************


39VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:19:07.56 ID:0XRoBxNro



「……あ、はい、どうも。警察の方ですね。すみません、実はマンションの二階で人が死んでいるのを見つけてしまいまして……」





先程とは違い、部屋の前では無く部屋の横。壁に背を預けたぼくは今や完全に解放されたドアを眺めつつ、只今皆のお巡りさんへと電話中。ちなみに電話を取ったのはおっさんだった。



詳しい場所とか、死体を見つけた時の状況だとか、お巡りさんがこちらに辿り着くための最低限の情報をできるだけ細かく伝える。

そうして一通り説明したらすぐ来ますとの事だったので、ぼくは「お願いしますー」と挨拶一つ。「ご協力ありがとうございます」という声を最後まで聞く事無く電源ボタンを押し込んだ。



……通話をするためのボタンは「通話ボタン」なのに、通話を断つためのボタンは「電源ボタン」。この辺りをよく考えればそれなりに深い意味を見出せそうだったけど、特に興味も沸かなかったのでそこら辺にぶん投げておこう。





「……よし、と」





そうして役目の終えた携帯電話をポケットに放り込み、ぼくは視線を左に向けた。

壁に立てかけてあるスケボーのその先、開かれたドアの内部でごそごそと蠢く塊が視界の端に移る。



やや! 何とビフォーアフターがゾンビと化して立ち上がったでござる! 天狗の仕業じゃ! 面妖な! 面妖な!!



……なんて事は勿論無く。


40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:19:38.25 ID:0XRoBxNro



「……これは、腹部から心臓部まで何度も刺されたのか……。……ん? この傷は……」(テレレン!)





先程から色々大切なものを無視して勝手に遺体検分をしている眼鏡少年だった。独り言……っていうか、無意識に考え事が漏れている、友達いないのかな。



さっきは一触即発モドキかっこ笑いな雰囲気で対峙していたぼくらだけど、結局は警察を呼ぶ方向で話は纏まった。

少年はこちらの警戒をまだ解いていないみたいだけど、一先ずは逃げる事は止めてくれた様だった。ぼくはそんなに怪しい人間に見えるのだろうか。ちょっと傷つく。



まぁとにかくそういう訳で、今現在の彼は傷口からはみ出た臓器や、肉の欠片の事なんて気にもかけずに遺体をじっくりと観察中。本当に何なんだろねこの子供。

そんなに見ても、ただグロいだけで素人目に分かる事なんて無いに等しいと思うんだけどなぁ。



……そういえば中村青年は警察が来たあと、一体どうなったんだろうなぁ。

恥をかいた事は、まず間違いないだろうが。



「たたたた」あの皆に支持された空回りっぷりを思い出し、何か頭痛がしてきた。

……もうやめよう、あの時の事を考えるのは。健康に良くない気がする。木曽川的な意味で。



ぼくは頭を軽く振ってその思い出を振り落とす。

その際にずれた帽子を片手で直しつつ、とりあえずドアの影から首を出し、ぼくのかわりに探偵役をやってくれている少年君に警察の件を伝えることにした。





「……今、通報し終えたよ。お巡りさん、すぐ来るってさ」



「ふーん、そうなんだ」





…………それだけ?



言外に探偵ごっこに興じられる時間はあと少しだと教えられたにも拘らず、返ってきたのはドライな一言。

むしろ警察が来るのが当然といった風情だ。もしかして警察が来た後も探偵役のポジションで居られると思っているのだろうか。



ぼくはそんな少年に一抹の不安を感じつつ、続ける。


41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:20:27.36 ID:0XRoBxNro



「警察が来た時に色々弄ってると怒られる事になるから、もうそろそろ止めておいた方が良いんじゃないかなあ」



「大丈夫だよ、僕警察の人に知り合いが居るから」





だからなんじゃい。警察の人と知り合いという事と君が怒られないという事はイコールで結ばれないぞ。

むしろその知り合いの人の名前を出したら、その人にまで迷惑がかかることになるんじゃないのか。



そんな思いと共にぼくは少年に胡乱気な視線を送ったが、彼は助言どころかこちらを見向きする事も無く、再び遺体の検分に戻り始めたのであったとさ。





「……ま、良いけどね」





怒られるのはぼくじゃないし。こっちに被害が来ない分には好きに勝手にやってくれて構わないさ。

どうせ警官が来たら拳骨なり何なりを食らって探偵ごっこは強制終了されるのだ。今のうちに探偵気分を味わっておいても良いんじゃないかな。



……いや監督責任とかで何か言われるかな? でもぼくは少年に警戒されているしなぁ。

言うことも聞いてくれないし、できる事なんて限られてるよねっと自己弁護。





「……となると、ベランダにロープ痕があるはず……」





少年は少年で今度は死体から周辺の状況に興味が移ったらしく、彼は何某かをむにゃむにゃ呟きながら部屋の奥へと向かっていく。

よく分からんが頑張れ少年、閃け少年。この殺人事件の解決は君の手にかかっているぞ!



小さな背中に無責任なエールを心中で送りつつ、首を戻す。


42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:21:13.40 ID:0XRoBxNro



そうして三度壁に背と後頭部を預けつつ、ここじゃ警察が来ても分かり辛いかな、と思案していたところで―――思い出した。





「……そうだ、浮気の調査」





そう、色々あって忘れかけていたが、ぼくは元々浮気調査の名目でビフォーアフターのマンションにやってきたのだった。

これから近いうちに警察の介入がある以上、依頼の達成ははもはや不可能であるが、一応未だ依頼は続行中。という体をなしている。



ならば一応探偵業を営んでいるものとしては、今からでもできる限りの調査はするべきなのだろうか。





「…………」





少年が消えていったドアの向こう。

先程まで関わりたくないと思っていたその先が、今では何となく悪魔の誘惑を放っているようにも感じられた。



…………いやいやいや、ぼくは中村青年の二の舞は勘弁だぜ。



ため息をついて首を振る。何かぼくってため息をついてばっかりだ、今までどれくらいの幸せが逃げたのかねぇ。

顔と壁に挟まれた後頭部が帽子越しに擦れ、ぐしゅぐしゅと髪の毛が絡まる。





「……ああ、そういえば所長に連絡してなかったな」





ぼく達が浮気調査の依頼を請け負ったことを知らせたら、タップダンスしながら(比喩表現)喜び狂っていた飛騨牛。

きっと今回の依頼がお釈迦になった事を知ればブレイクダンス(比喩表現)でもしながら、ねちっこくイヤミを放ってくる事だろう。



正直その事を考えると、知らせを入れるのにジメっとした抵抗感を受ける。しかしぼくは哀れにも彼の下で働いている下っ端であり、上司たる飛騨牛への連絡は避けられない。

まぁ最初に連絡する相手に真っ先にエリオットを選んでいる辺りぼくの所長に対する扱いは察せられるだろうが、一応上司は上司なのである。


43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:21:46.96 ID:0XRoBxNro



「さてさて、と」





警察への通報という大役を果たしてくれた携帯電話君、今一度出番がやってきたぞ。君の電波を送信してくれ。



ぼくは携帯電話を取り出しつつ、開け放たれたドアを一瞥する。

探偵少年君に何か一声かけていくべきかと思ったけど、ちょっと電話をかけるだけだし別にいいかと思い直した。



とりあえず、この場所から少しだけ距離を取っておいたほうが良いかな。少年君に声が届くことはまず無いのかもしれないけど、念のために。



別段聞かれても困ることは少ないのだが、あの探偵役にどっぷり浸っている少年君に聞かれては、また何やかんやと質問責めにされるのは目に見えているからね。

僅かながらもビフォーアフターと縁がある事を知られて、人物相関図に容疑者枠で参入するのは避けたい所だ。いやもうなってるのか?



…………あ、あと守秘義務とかもあるし。





「アドレス帳から左を二回下を一回」片手で携帯を操作しつつ、ジュラルミンケースを掴みあげる。左手の皮膚に触れた部分の体温が急上昇、よほど太陽の光を吸い取っていたようだ。



そうしてマンションの廊下の突き当たりにあるエレベーター前に向かって歩き始めた。

エレベーターには殺人鬼の時の件で若干苦手意識を持っているぼくだが、乗らない分にはまぁ問題は無い。



あのホテルでの事件で出会った個性的な面々を思い出しつつ、通話先の事務所の番号を呼び出し、通話ボタンを「ぽちっとな」。無機質な電子音が耳の中に木霊する。

飛騨牛も一応は携帯電話を持っているのだけど、這い寄る年波の影響か何時もどこかに置き忘れていて繋がらない事がよくあるのだ。



その点事務所に備え付けられている電話機ならば、携帯電話よりは繋がる可能性がある。何せ仕事が無い時は一日中事務所で昼寝してるからね、あの牛さん。



……まぁ、どこかに遠征している時は当然その限りではないので、一抹の不安はあるのだが―――「お」っと言っている間に繋がった。

耳の中に木霊する音が電子音からボコボコというくぐもった音に置き換わる。





ぼくは早速、飛騨牛に浮気調査の件を報告しようと口を開け―――





『はーい、こちら……かみもり?探偵社でーす』



「すいません、依頼なのですがぼくと二年間だけ永遠の愛を誓っていただけませんか」



『死ねーいロリコーン』電話を切られた。




44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:22:33.81 ID:0XRoBxNro



ので性質の悪いストーカー張りにリダイヤル連打。





『今度言ったらこの電話の線引っこ抜くから』





そう不機嫌そうに再び電話を取ってくれたのは、飛騨牛とは似ても似つかない涼やかな声。

ぼくが今思いを寄せている女の子、トウキその人であった。



何時もはアパートに居るはずの彼女がどうして事務所に居るのか。

気にはなったものの、ぼくはトウキと喋る事に無粋な疑問を挟むような悪い子ではないのですぐに忘れた。



どうでも良いけどロリコーンって何か神秘的な言葉だよね、ユニコーンみたいで。





「酷いなぁ、思いがけずにトウキの声を聞けた喜びでプロポーズが前倒しになっちゃっただけなのに」



『ほんとにルイージは爽やかな声で気持ち悪いこと言うよね、やっぱり死んだほうが良いんじゃない?』



「実はもう婚約指輪の構想は練ってあるんだ。期待してくれていて良いよ」



『ねぇいつ死ぬのー? ねぇねぇ、いーつーしーぬーのー?』





ね? ツンデレでしょ?



ぼくはそんな彼女の照れ隠しに笑みが漏れ、死体やら少年君やらの事で感じていたささくれ立った気持ちが晴れていく。

何というか、回復魔法を食らったような気分。やはりトウキはぼくにとってのお姫様なんだなー、と今更ながらに再確認した。



ちなみに補足すると、彼女の言葉の中に出てきた「ルイージ」とはぼくの事だ。その理由は直接聞いたことは無いけど、多分ぼくが何時も頭に載せている帽子とその色から連想したものと思われる。

トウキ―――つまりは「桃姫」と「ルイージ」、中々に洒落と皮肉が効いている呼び名同士だとぼくはひっそりと思っていたりする。


45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:23:16.36 ID:0XRoBxNro



「ハハハハハ、少なくともあと二年は死ねないかな。二年経ってもトウキが居る限りは死ねないだろうけどね」





一応、これは本音だ。



ぼくがトウキの面倒を見ている理由に、彼女が物凄く好みの女性であるという要素が大部分を占めていることは否定しない。あわよくばイイ関係になれるかもという打算もある。

しかしそれらと同時にぼく自身もトウキのことを気に入っているのだ。少なくとも例えあと二年で結婚適齢期から外れ、女性として見る事ができなくなっても嫌うことは無いだろうと断言できる程度には。



何より、彼女に手を差し伸べたのはぼくなのである。その責任は果たさなければならない。



「恋愛関係にはなれなくても、友情は育むことができるのさー」とはぼくの弁だ。どうしてだろうね、字面は綺麗でもぼくが言うと何か薄汚れた意味に聞こえるのは。

そう答えると彼女はフンスと鼻を鳴らしたあとに『……で、何の用?』と聞いてきた。



おっと忘れるところだった。





「ああそうそう、実はちょっと所長に用があるんだ。もし近くに居るんなら蹴飛ばして起こしてくれるとありがたいな」



『ていうか、どうして私がここに居るのかは聞かないのね』





君もぼくの話を聞いてくれないのね。



清清しいほどに頼みごとを無視する彼女の声に「困った子だなぁ」というニュアンスの苦笑が浮かぶ。まぁそんな所も愛しい訳ですがね!





「もちろん、ぼくが居ない事が寂しくてわざわざ事務所まで会いに来てくれたんだろう? まったく、今日はぼくは事務所に居ないって伝えてあったのに……でも、君がそこまで想ってくれてた事はとても嬉しいよ。ありがとう」





と、ここまで言い終えた時には既に通話は切られていた。リテイク。




46VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:24:24.45 ID:0XRoBxNro



『ウチの扇風機が壊れちゃってさ、あんまりにも暑かったから事務所まで歩いてきたの』



「ああ、だいぶ古い型だったからね」今度お墓でも作ってあげるべきだろうか。



『ていうか何時もルイージこんな涼しい所で仕事してるの? ロリコンの癖に贅沢ね、ずるくない?』





はて、ロリコンが贅沢をしてはいけないという法律は無かったと思ったけど。





「ハハハ、それもこれも全部は愛しい君との生活の為さ。少しの環境的役得ぐらいは大目に見てもらえると嬉しいなぁ」



『それ頭に期間限定が付くんでしょ、このロリコン。……あーでも、ホント涼しいなぁ……今度から朝ルイージと一緒に来ようかな……』





トウキが思わずといった様子で呟いたその声は、かなり小さい声量ではあったもののしっかりとぼくのロリコンイヤーへと届いた。



……ふむ、まぁ、別に良いか? 扇風機も無しに日中暑い中放置していて熱中症になられたらぼくは死ぬほど後悔するだろうし、何より彼女をそんな目に合わせたくは無い。

本当は探偵社という仕事場に子供が居る、という姿は客に不安感を与えかねないのであまりよろしくないのだろうが、お茶酌みとかしてもらってマスコット的な立場にすれば……いけるかな?

戻ったらエリオット達に相談してみよう。



唯一の心配事といえば、トウキの必殺&直感の毎ターン発動型精神コマンドの事だけど……多分何とかなるんじゃないかな。

ぼくだって何度も死に掛けたが結局は五体満足で生きているのだ、ロリコンが生き残って宇宙人と飛騨牛が生き残れないなんて道理はあるまいと楽観視する。



……と、さっきから思考がずれているな。いやロリコン的には正しいんだけど。

話題修正。





「まぁそれは明日にでも話し合うとして、そろそろ飛騨牛を呼んでくれると助かるんだけど」



『居ないわよ』





即答。


47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 20:25:06.22 ID:0XRoBxNro



コンクリートに投げたスーパーボール並みに勢いをつけて跳ね返って来た返事に即座に対応することができず、ぼくは「うん?」と無意識に疑問の声を上げる。

……あ、良く見たらジュラルミンケースにガムが引っ付いてら。





「え、居ないの?」



『うん、何か……何だっけ、しほーしょし、何とかってお仕事が入ったから、ちょっと出てくるって言って出かけちゃった』



「あー」





そっちの仕事が入ったのか。トウキの可愛らしい言い方に身悶えつつも額に手を当て宙を仰ぐ。ふと見ると、エレベーターの表示が下に降りて来る所だった。



実を言うと、我らが神守探偵社は所長が推進する多角経営の一環として司法書士事務所の看板も掲げていたりする。

そっちの方は資格を持っているのが飛騨牛だけなので、それ関係の仕事が来た場合には彼自らが出撃しなくてはならないのである。



エリオットはぼくと同じく朝から故・ビフォーアフターの職場のほうに向かって居たはずだし、成る程、事務所には今トウキしか居ないのか。一抹の不安的中。

だから彼女が電話を取ったと言う訳ね。閃かない頭が今になって状況を把握した。





『何? 大事な用?』



「んー、いや、そこまで大事な用でもないから、別に今じゃなくても良いんだけど」



『……ふーん? ほんとに?』





少なくとも君の事に比べたらチリみたいなもんですたい。

……と、気の無い振りで言い放ったはずなのに、何故かトウキはそんなぼくの言葉―――というかぼくの受けている依頼に強い興味を見せてきた。どうせ興味を持つならぼく自身の方にしてほしいのに。





『ほんとに大事な用じゃないの?』



「……と、言いますと」

48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 20:25:57.70 ID:0XRoBxNro









『ルイージ、何か事件に巻き込まれてたりしない?』










49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:26:26.43 ID:0XRoBxNro



ぎちり、と。胃袋の中が引きつった。





……相変わらず鋭い勘をお持ちですね。癒しの象徴がガラガラと崩れ去っていく音が聞こえる。



だがしかし、ぼくは平静を取り繕うことなら探偵社で誰にも負けない自身がある。それがトウキの前だとするなら尚の事。

声帯を必要以上に震わせないよう意識して、爽やかな声をひねり出す。





「ハハハ、まぁ今回の依頼は浮気調査だからね。まだ危険な目にはあってないけど、これから先穏便に済まない事もあるだろうさ」





嘘はついていない。既に殺人事件に巻き込まれているけど、ぼく自身が犠牲になった訳じゃないのでギリギリ穏便の範疇に収まっているはず。と、思いたい。

何となく落ち着かなくなって、再びエレベーターの表示に目をやる。光っている番号は5階だった。





『えー? 絶対になんかあるでしょ。あるに違いないわ』



「……何でそう思うのか、聞いても良いかな」





いや結局は勘なんだろうけど、参考までにね。



事件に巻き込まれた形跡を見た訳でも、犯人の顔を見た訳でも、その声を聞いた訳でもなく、ただ電話越しにぼくの状況を直感するなんてどういう事なんだろうかと少し気になったのだ。

ぼくへの愛ゆえに、だったら嬉しいんだけど。無いですよねー。





『んー、別に何がどうって訳じゃないんだけど』



「うん」





エレベーターの表示が5から4、3、と降下を続ける。

ぼくにはそれが何らかのカウントダウンの様に思えてならず、不吉な印象を受けた。


50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:27:09.37 ID:0XRoBxNro



『あれよ、さっきまでは何とも無かったんだけどさ、ルイージの電話を取ったらビビビって来たのよ』



「前から思ってたんだけど、君は一体何処から電波を受信しているんだろうね」



『さぁね、私だって知りたいわよそんなん』





等とじゃれていると、ちょうどエレベーターの表示が2の数字で点滅。ポーンと言う音が響き、この会に誰か降りてきた事を伝える。カウントダウンが止まり、ちょっと安心。

もしかして警察かな、と僅かに期待したけど、上の階から降りてきたって事は違うよな。と思い直した。





『それで、何でルイージが事件に巻き込まれてることが分かったかというとね』



(あ、そこはもう確定なんですね)





当然といった口調で話すトウキの言葉に相槌を打ちつつ、ぼくという存在が邪魔にならない様にケースを持ってエレベータの前から少しだけ移動する。

日々ロリコンロリコンと変態扱いされているぼくだけれど、決して社会に迷惑をかけている訳ではないのだ。むしろ探偵である以上人様の為に生きていると言っても過言ではない。

存在自体が迷惑だとトウキは言うけど、それは偏見というものなのだ。ぼくはそんな理論を頭の中で展開、ゆっくりと開いていくドアを惰性で見つめながら、彼女の言葉を待つ。



心の中で「でょるるるるるる」とドラムロール、下がり気味のテンションを無理矢理持ち上げた。







―――そうして、トウキの息遣いが通話口を叩く音と、エレベーターのドアが開ききったのはほぼ同時であったのだ。




51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 20:27:44.69 ID:0XRoBxNro









彼女は言った。





『何か、犯人っぽい人がルイージの所に近づいてってる気がしたから』






52VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:28:13.65 ID:0XRoBxNro





「―――犯人?」





「えっ」『うん』





「は?」





―――開いたエレベーターの扉の中。



何と無しに眺めていたその場所に現れたのは、何かワイヤーの様な物が巻き付けられた紅く染まった包丁を鞄の中に押し込もうとしている女性の姿。



そして彼女はぼくの「犯人」という言葉を耳に入れてしまったらしく、目を丸くしてこちらを――――――











うそーん。









*********************************


53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 20:28:40.54 ID:0XRoBxNro

ちょっと席立ちます

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2012/08/20(月) 20:48:19.66 ID:f/AiJ6RAO

これはまたエレベーターの中で昏倒か…

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:52:58.35 ID:0XRoBxNro



ぼくの死滅しかけた脳細胞は、一瞬でこれから起り得た筈の未来をシミュレートした。





もしもぼくがエレベーターの前で電話する事が無かったら。



もしもぼくが「犯人?」等と口に出す事が無かったら。



もしもその女性がもう少し早く凶器らしき包丁を鞄の中に仕舞う事ができていたら。



どれか一つでも違っていれば、少なくともその場は何事も無く消化することができたのだろう。



そして何某かのトリックを終えてきたらしきこの女性は悠々とぼくの傍をすれ違い、自室だか事件現場だかに向かい、探偵を気取って調査をしている少年に驚く。

この時点ではまだ彼女が殺害犯(トウキに勘により確定済み)だと誰も知らないため、おそらく彼の事を諌める何なりするのだろう。

そうして呼ばれてきた警察に、目撃者を装って「犯人を捕まえてください」なんて白々しく訴えかけるのだ。少年が警察に怒られているのを尻目に。



いや、もしかしたらスーパー少年タイムが始まって土曜日の夕方六時的な展開が始まる可能性もあるか? 

きっとどこかの平行世界ではそんな事も起こりえたのかもしれない。テレビを通してなら割と見たかった展開だ。



……まぁ、こんな状況となってしまったこの世界線ではいくら考えても詮無い事なんだけど。





―――人、それを現実逃避という。

56VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:54:12.41 ID:0XRoBxNro



「いぎっ―――!」





殺害犯(確)の行動は素早かった。



凶器を見られた焦りからか、それとも自分が犯人だと見抜かれたと勘違いしているのか。

どちらかは分からないけど、とにかく焦った様子で奇声を上げながら、電話を片手に呆けているぼくの下に突っ込んできたのだ。



その勢いと『ルイージ? ねぇ聞いてんのちょっと』と耳元で囁かれる甘い言葉に反応し、事ここに至りようやく再起動を果たした。

焦ったぼくは「え? あ、とでね」まわらない口で通話を切り、携帯電話とジュラルミンケースで両手が塞がった状態のまま体の前面にクロスして本能のままに防御体制をとった。



ぼくの混乱に満ちた脳内には、一瞬だけだったが確かに見えた包丁が強烈に印象に残っていて、殺害犯(確)がこちらに突撃してきた事と合わせて「刺される!」と思ったのだ。





「ちょ、あ、え」



「っちぃにぃぃ……!!」





しかしそんなぼくの予想は外れ、殺害犯(確)はそのクロスした右腕を掴み、女性とは思えないような力強さで引っ張り上げた。

「おぅわっ!」口から情けない悲鳴が漏れ出て、ぼくの決して小さくは無い身体が前方へと倒される。



腕のクロスが外れ、開けた視界に見えた景色は、口を開けたままのエレベーター。と、ぼくの腕を握り締めた、目を血走らせた女性が一人。

彼女は女性を捨てたとしか思えない、力強く足を踏ん張った体制で円を描くようにぼくを振り回し配置交換。ぼくは倒れまいとバランスを取るのに必死だったので、成す術無くその力の激流に翻弄されてしまった。



そうして遠心力も加えた勢いで、彼女はぼくをエレベータの中に向かって投擲。「っぐ」いきなり手放されたおかげで勢い良く後方に吹き飛び、そのままエレベーターの中へホールインワン。

真っ白な内壁に背中からぶち当たり「ぐへぇっ」一瞬息が出来なくなった。帽子が頭の上から離れ床に向かって落下する。





また犯罪者とエレベーターでランデブーかよ! ほんとにもう勘弁してくれ!!


57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:55:47.36 ID:0XRoBxNro

そう嘆くぼくの感情など知ったこっちゃ無いという風に、殺害犯(確)は再びエレベーターの中へ舞い戻り、ぼくの腹部に勢い良く跨り首に手をかけようとした。

「……ぎっ!」何をするつもりなのかを理解して血の気が引いたぼくは、先程掴まれていた右腕に握り締めたままだった携帯電話を彼女の顔に向かって突き出した。ぼくの首を絞めて良いのはトウキただ一人だけだ!!



がぎり、と鼻の下の部分―――確か人中だったっけ?に偶然当たり、一瞬怯ませる事に成功。その隙を突いて彼女の額に頭突きをかまし、仰け反らせる。

歯か顎か。硬い所に当たった額がかなり痛んだけど、そんな事に気を取られている場合じゃないと滲む涙を我慢して「うらあっ!」っと気合一発。殺害犯(確)の下から身体を引き抜き、ついでに腹部に蹴りを入れて距離を取った。



といっても、エレベーターの中だからそんなに離れられないんだけど、それでも攻撃に対応できる距離にはなったはずだ。

ぼくは息も絶え絶えで、エレベーターの入り口近くに陣取ったままこちらを睨み付けて来る殺害犯(確)を警戒する。



熟女依頼人と同じくらいであろう年齢の彼女は、足跡の付いた腹部を押さえながら肩から掛けたままだった鞄の中に手を突っ込み何かを漁っている様だった。





「は、は、おち、付こう。まずは、話し合いを」



「せ、せっかく、あの××チンを、殺すの、に、考えた、のに」





その「何か」の正体に心当たりがあったぼくは、とりあえず彼女を落ち着かせるために話し合いを提案するけど、にべも無く一蹴。

取り乱した様子の彼女は近くにあったエレベーターの「閉」ボタンを叩きつける様に押し込み、擬似的な密室空間を作り出した。やっべぇ。





「やっと、やっと、やだ、捕まりたく、ないのに」



「わかり、ましたので。分かりましたから、落ち着きましょう、ね?」



「だって、悪いのはあの男だったのに、何で、何で、私が」


58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:58:07.80 ID:0XRoBxNro



暖簾に腕押し、糠に釘。どうやら混乱しているのは向こうも同じらしく、何やら動機の断片らしきものを口にしつつ血走った瞳からぽろぽろと涙を溢れさせている。



まぁそれも仕方も無い事なのだろうか。証拠と証言からじわじわと順番を経てアリバイやら何やらを切り崩されていく事無く、トウキというチートコードを使ったロリコンにいきなりトリックを無に帰されたのだから。

加えて殺人によって精神的な負荷と、トリックの遂行より高揚していた彼女には正しい判断を下すことが出来なかった訳だ。いや殺人が正しい判断なのかはさて置くとして。



だからうっかり凶器を見てしまい、尚且つ「犯人」という言葉を口にしてしまったぼくに襲いかかって来たのかだろう。ぼくを「殺害現場」と「自分」を結びつけ「犯人」と断定した者と仮定し、己を捕まえてこようとする邪魔者を排除するために。

……実際のところは、ぼくは何一つ状況を分かっておらず、加えて犯人を積極的に捕まえようという気は皆無だったのだが、他人にそれが分かる訳もなし。



つまりこれは完全無欠に彼女の早とちり且つ墓穴という訳だ。ははははは、ふざけんなばか。





「殺さなくちゃ、そして、隠して……」そう言って鞄の中から取り出された手には、予想通り刃の部分が赤黒く染まった包丁が握られていた。

柄の部分には何故かワイヤーが括り付けられており、何らかの頭のいい方法で使用されたことが如実に分かる有様となっていた。



……そう言えば、少年がロープ云々言っていたが、もしかしてこの事だったのだろうか。

そうだとしたら本気で探偵の素質あったんじゃないかと思ったが、今はそんな事に気をかまけている場合ではないので頭の中からほっぽり出す。



そうこう考えているうちに、包丁を構えた殺害犯(確)は「だから、あ、あぁぁああああああ!!」叫びながらぼくに向かって突進。この美しい地球からロリコンを一人排除しようと迫り来る。

59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 20:59:30.22 ID:0XRoBxNro



ぼくはそんな彼女に咄嗟に携帯を投げつけて、ジュラルミンケースを腹が見えるように両手で構えた。

携帯電話がこめかみに当たり、少しだけだが勢いが削がれた事を確認した後、大きくジュラルミンケースを振り上げる。



そうして「ロリコンは病気じゃないんだよおおおおお」威嚇する意味を込めて叫びつつ、重量を乗せた一撃を振り下ろした。

それに気づいた殺害犯(確)はぼくの行動を阻止するべく包丁を突き出してくるけど、一瞬だけこちらのほうが早かったようだ。包丁ごと彼女の手をジュラルミンケースで叩き落とす事に成功する。

そして一瞬の浮遊感、どうやらエレベーターが1階に下降を始めたようだ。





ガギィィン――――――!





勢い良く包丁の刃とジュラルミンケースが触れ合い、けたたましい音を立てて包丁の刃が欠け、ケースの塗装が剥がれた。「まただよ!」

しかしジュラルミンケースの威力はそれだけに収まらず、殺害犯(確)の包丁を持っていた指と手首をすごい角度へと折り曲げた。





「ぎ、ぃっ―――!」





どうやら手に激痛が走ったらしく、彼女の顔が苦痛によって更に歪み、動きが止まる。

それでも包丁を手放さなかったのは敵ながら天晴れと言いたくなったが、この場合は喝と叫んでおきたい所だ。


60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:00:51.73 ID:0XRoBxNro









―――ぼくはその隙を逃す事無くもう一度ジュラルミンケースを振り上げて、今度は殺害犯(確)のこめかみに―――先程携帯電話が当たった箇所へと叩き付けた。








61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:01:20.04 ID:0XRoBxNro



ぼぐん、と物凄い音がエレベーター内に響き、彼女の頭が横に大きく振られる。そして勢いのままに壁に叩きつけられ、今度こそ包丁を取り落とさせる事に成功する。

そして更に火かきマンの時の如く鳩尾に一発、戦闘意欲を削ぐために角を使っての一撃を畳み込んだ。





「あ、がっ」





その一撃をまともに喰らった殺害犯(確)は身体を痙攣させ悶絶し、壁を伝ってズルズルと床へ倒れこむ。追い討ちをかけたいところだが、今度はぼくが殺害犯(疑→確)となってしまうのは是が非でも避けたかったので、警戒したまま様子を見る。

しかし、まだ向かってくるかとビクついているぼくとは裏腹に、彼女は倒れこんだままピクリとも動かず身動ぎ一つしなかった。



…………お、おやおや?





「……も、しもしー……」





……よもや殺害犯(疑→確)が爆誕してしまったか、と不安になり震える足で近づき呼吸を確かめてみると「すひょーすひょー」という音が聞こえて、ほっと一安心。

そうして白目を剥いたままの顔を悲鳴を上げかけ、頬を強めに叩いてみたが起き上がる気配は無し。どうやら気絶しているようだともう一安心。



ぼくを襲う死の脅威の排除に完全に成功した事をようやく確認し、さらにもう一回安心ボーナスだドン。





「……はぁぁぁぁぁぁ」





ぼくは一際深いため息を吐きつつ、エレベーターの隅に飛んでいた携帯電話と緑の帽子、殺害犯(確)の傍に落ちていたワイヤー付き包丁を指紋が付かないように回収。

携帯はポケットに、包丁は彼女から離れた所に投げ捨て、帽子を目深に被りなおした上で壁にもたれ力無くしゃがみこんだのだった。




62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:02:42.95 ID:0XRoBxNro



……何とか、勝った。





心臓がばくばくと激しい鼓動を刻み、全身から暑さとは別の冷や汗が流れ出る。

だからエレベータは苦手だって言ってるじゃないですかー。やだー。





「うごきたくねーぇぇぇー……」





ポーン、と。

ちょうど一階に辿り着いたのか、電子音と共にエレベーターの扉が開いた。



外から差し込んでくる電球とはまた別の光に目を細め、ぼくはゆっくりと立ち上がる。先程の宣言通り本当はもう指一本動かしたくは無かったのだが、この状況を放って置く訳にも行かない。

エレベーターという密室に、気絶した女性とぼくが居座るこの光景。一つ一つの要素はまったく持って別物だけど、光景だけを見ればまるで青スーツの殺人鬼の時と一緒だ。

あらぬ誤解をまた受ける羽目に陥りそう。





「まぁ、あの時はぼくが気絶した側だったけど」





愚痴るように呟きつつ、左手にジュラルミンケースとワイヤー付き包丁のワイヤーの先を、右手に殺害犯(確)の腕を抱えて、引きずるようにエレベーターを後にした。

キキキキと包丁が床とこすれる音が響く。ぐったりとした人間一人を片手で引きずるのは結構大変だったけど、何とか運べたのでまぁ、良かった。





「あー……」





そうして日の当たる一階の廊下、運良く人通りの皆無だったその床に彼女を寝かせ、うなり声を上げる。

よくよく観察してみると、彼女の服にはガムがくっ付いていた。どうやら鳩尾を殴った際にジュラルミンケースから移ったらしい。どうでもいいか。


63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:03:32.97 ID:0XRoBxNro



いやあ、これからどうしようね。いいアイデアが出てこない。



それに加えて、この人は一体なんだったのか、殺人に使われたトリックとはどのような物だったのか。

疲れ果てた頭で考えるも、何一つ察する事も出来なくて途方に暮れる。





「あ」





そんな中、唯一申し訳ない事をしてしまったという人物に思い至り、ぼくは宙を仰いで帽子を指で押さえ呻いた。



ぼくが偶然から無に帰してしまった状況を、今も必死に調べているであろう彼。



その事を意識した瞬間、ぼくはやっちまったという感情で一杯になったのだった。


64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:04:04.48 ID:0XRoBxNro







「―――すまん少年探偵君、犯人はぼくが撲殺してしまった」






65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:05:38.52 ID:0XRoBxNro





**************************************







それからの事は特に語るまでもない。というか、語ることが出来ない。

何故ならば、ぼくは先の中村青年の時と同じように警察の到着を待つ事無く事件現場から逃げ出したからだ。



警察への事件説明も面倒くさかったし、何より殺害犯(絶)との死闘を説明がそれ以上に面倒だったのだ。

死体を発見しただけならまだしも、「事件の犯人と殺し合って何とか捕まえる事ができました」なんて報告したら、事情説明で何時間拘留されるか分からない。

犯罪者扱いなら慣れてるから別にいいけど、下手したらヒーロー扱いなんて柄じゃない扱いをされそうだ。いやん。



事務所で一人きりのトウキの下へさっさと馳せ参じたい事もあり、ぼくはこの事件をまるっと投げ飛ばすことにしたのである。





―――具体的に言うならば、少年探偵の方角に向かって。





彼曰く警察に知り合いが居るらしいので、きっと何とかしてくれるでしょう。うん。



ぼくはそう決めるや否や殺害犯(絶)の手首と足首を包丁についたままのワイヤーを使ってぐるぐる巻きにし、メモ帳から破りとった「この人が殺害犯です、包丁が証拠」と一言添えた紙を彼女の服にくっついていたガムの上に貼っ付けた。

そしてもう一度警察に連絡してその旨を伝えた後、ぼくはスタコラサッサとマンションを後にした。いやあ、一階に下りてて地味にラッキーだったな。



マンションから出た後大通りを走っていたタクシーを捕まえ、駅に向かう。道中にパトカーが事件現場へと向かっている光景を見て、ぼくは安堵のため息を吐いた。

……これ、もう少し出るのが遅かったら警察に見咎められたよな。危ない危ない。





「何かあったんですかね」





そしてタクシーの運転手が会話を求めて放ったその一言に、ぼくは疲れ果てた声で「さぁ?」と答えたのだった。




66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:06:43.80 ID:0XRoBxNro



後部座席のクッションに身を沈めながら、ぼくはここに何をしに来たんだろうと考えた。



浮気調査の為にわざわざ暑い中米花町までやってきて、それで得たものは何も無し。その癖、失った物だけは沢山ある。

依頼の件に、ぼくの体力と、気力、そして交通費。そのほか精神的なものが色々。



殺人事件が起こったにしては珍しくぼくが探偵だという事は誰にも露見しなかったけど、結局犯人との殺し合いになったし、何というバッドイベントだろうか。



依頼の件に関しては殺害犯(絶)に問い詰めれば良かったかなとも思ったが、あの精神状態じゃ無理だったよなぁ。

それにもしかしたらあの女性はストーカーだったという可能性もあった訳で。もし聞けたとしても、その情報の信憑性は怪しい物だ。



気絶が醒めるのを待ってたら警察も来てただろうし、とりあえずはまぁ、これがぼくにとっての最良だったのだろう。



……いやはや、それにしてもトウキが居なかったから殺人事件は起らないだろうと思っていたが、ばっちりと巻き込まれてしまった。

そういう所は徹底していたはずなのに、今回に限っては何でなんだろう。





……ああそうだ、トウキで思い出したけど。





「少年君には悪い事したかなぁ」





きっと探偵に憧れていたのだろう、あの眼鏡をかけた少年の事を振り返る。多分、今頃は警察の人たちに怒られてる頃かな。

何となく不思議な感じのした子供だったが、流石にお巡りさんに怒られたら泣いて謝るしかないんじゃないかな。うん。



大の大人としては少年君に物事を投げ飛ばした事に罪悪感を覚えなくもなかったけど、警察と知り合いだっていうしね。

本人も大丈夫っていってたし、うん。ぼくはそれを信じただけサ!



なんて、ぼくの小さい良心に向かって自己弁護。

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:07:19.66 ID:0XRoBxNro



すると「何ですか?」と、独り言を聞きつけたのかタクシーの運転手が振り向いてきた。



前! 前! と叫びかけたけど、良く見れば赤信号だった。ああ良かった疲れてて。

力の抜けたぼくは「何でもありません」と答えを一つ、そのまま疲れてますよオーラを出して会話を打ち切ろうとして―――





「っと、そうだ。ちょっと聞きたい事があるんですが」





エリオットからのメールを思い出して、ぼくの方から会話を続行させた。



タクシーの運転手はそんなぼくの様子に心なしか嬉しそうな表情で、その先を促す。



この人、客と会話するのを楽しむタイプの人っぽいな、探偵としても個人的にも好感の持てる人物である。

ぼくはソファに身を沈めた時にズレた帽子を定位置に戻し、今度は嘘偽りのない笑顔を浮かべて口を開いたのであった。




68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:07:56.04 ID:0XRoBxNro









「―――ここら辺でいいお土産屋さんとか、知りません?」








69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 21:15:53.87 ID:0XRoBxNro

以上、オワリ



一応弁解させていただきますが、俺はコナン君が嫌いな訳じゃありませんです。

ただ主人公がおっちゃんレベルで閃かないため、こんな感じとなりました。



それよりもクロクロクロックみんな買おうぜ! ルイージの勇姿が見られる上に、ちょい役だけどみーくんとにもうと(らしき人)も出演してるから!





あと明日の朝あたりにおまけ投下します。

本編は今夜中に終わったので嘘はついてないよ。

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:21:06.57 ID:0XRoBxNro





おまけ









「……で、どうだったの工藤君。私を観察してた緑帽子の男の件は」



「ああ、わりーけど駄目だった。街中で見つけてマンションまで追っかけたまでは良かったんだが、殺人事件の有耶無耶に紛れて逃げられちまった」



「……へぇ、殺人事件ね。もう呪われてるとしか言いようがないわね、工藤君」



「うるせえよバーロー」



「それに逃げられたって事は、どうせ目の前の事件を解決するのに現を抜かしてて、注意がおろそかになったんでしょ? まったく呆れるわね……」



「う、うるせえっての! ……それに言っておくが、事件を解決したのは俺じゃねえよ」



「え? ……どういう事かしら?」



「俺がトリックを暴く前に、真犯人を捕まえた奴がいたんだよ。しかも証拠つきでな」



「……まさか、例の緑帽子が?」



「ああ、間違いねぇ。あいつの持ち物にガムに見せかけて仕掛けて置いた発信機が、犯人に擦り付けられてた。しかも伝言の紙留めとしてな」



「成程……その男はそれが発信機だと気付いてたという事を、これ見よがしに工藤君に知らせたって訳ね」



「危うく高木刑事に発信機が見つかるところだったぜ……」



「……工藤君を出し抜くなんて一体何者なのかしらね、あの緑帽子の男は」



「ああ、最初はただの殺人犯だと思ったんだが―――あいつ、お前だけじゃなくて俺の正体にも何か感づいてやがった」



「何ですって……?」



「間違いねぇ筈だ。一旦は引いてくれたが、あのまま続けてたらバレちまったかどうかも分からねぇ」



「……私だけじゃなく工藤君まで……? まさか、本当に黒の組織の―――」



「いや、それはまだ確定してねぇな。限りなく黒に近くはあるが」



「? どうしてそう言い切れるのよ」



「―――探偵の勘だよ。あの緑帽子はまず間違いなく俺と同じ、探偵っつー種類の人間の筈だ」



「はぁ……まぁ、あなたの勘は良く当たるから否定はしないで置くけど、それだけで黒の組織の一員じゃないと決め付けるのは早計じゃない?」



「別に決め付けてはいねぇよ、黒に近いグレーってだけで。それに組織お抱えの探偵って線もあるからな」



「……そこまで考えておきながら、どうして?」



「簡単だよ、あいつ俺が殺人事件の現場に入る事を止めたがってたからな」




72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/08/20(月) 21:21:34.77 ID:0XRoBxNro



「……?」



「つまり、子供に死体を見せるのを止めたがってたって事だ。あいつが本当に組織に魂を売り渡してるような奴なら、そこに拘る可能性は低い」



「…………そうね。確かにあいつらなら止めようとなんてしないわ」



「だろ? だからグレーだ」



「……ふぅ、でも緑帽子の情報が少な過ぎるわね」



「お互いに自己紹介もしなかったからな……くそ、警戒しすぎたのが裏目に出たか」



「まぁ、今になってどうこう言っても遅いから、しょうがないのだけれど……」



「ああ、あの緑帽子が組織と関わっているのなら、奴等を追っているうちに必ずまたどこかで出会う事になる。その時だ」







「その時こそ、必ずあいつの正体を暴いてやる―――」

























「……ルイージ、何これ」



「何って、米花町土産の『眠りの小五郎クッキー』。試食したけど美味しかったよ」



「ほうほう、探偵界の生ける伝説、毛利小五郎を模したクッキーという訳かい。流石太郎君、普段やらない癖にやれば出来る子じゃないか。頭を撫でてあげよう」



「わははははははははは、ぶん殴るぞう宇宙人めー」



「……おっさんの絵が描いてあるクッキー………………あ、おいし」


73VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 21:22:22.35 ID:0XRoBxNro

以上、今度こそオワリです

お付き合いありがとうございました

74VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[sage]:2012/08/20(月) 21:53:38.82 ID:0lRJ2vwAO







本当に閃かねぇなルイージ

75VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/20(月) 21:59:43.29 ID:wOXQKC2yo



乙!随分珍しいものが見られた



続き思いついたりしたらまた見たいな

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