ドラッグ オン ドラグーン3 討鬼伝

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ぬ~べ~「鬼……だと?」


1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 00:50:03 ID:sRZ+EipZO

代理 lAIlEs3T0

地獄先生ぬ~べ~
「激突! 鬼の力を持つ男……の巻」


以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 00:52:38 ID:lAIlEs3T0
地獄先生ぬ~べ~
「激突! 鬼の力を持つ男……の巻」



「ねえ、高志ー。やっぱヤバいんじゃなか? 勝手に抜け出したりして……」
「なんば言うとね、明日香、ひょっとして怖かね?」
 クラスメートの弱気な声を振り払って、少年はさらに歩を進める。夜の屋久島を照らすものは懐中電灯の頼りない明かりだけだ。
「先生に見つかったりしたらぁ……」
 ポニーテールの少女は声を震わせ、それでも必死に少年の後をついて歩く。その潤んだ瞳には小学生らしいあどけなさが多分に残っていた。
「あんな先生、何が怖かか。本州から転任してきて、調子ば乗っとるだけたい」
 少年が、ふん、と鼻を鳴らす。
 屋久島の森は鬱蒼と茂り、小さな二人を飲み込まんとする程の闇を湛えていた。

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 00:53:47 ID:lAIlEs3T0
     *     *     *

「生徒が抜け出しただって!?」
 教師達の混乱に満ちた叫びが旅館を震わせる。部屋の前では生徒が数人、教師に怒鳴られながら半ベソをかいていた。
「お前ら、どうして止めなかったんだ!」
「ご、ごめんなさい、私たち止めたんですけど、高志君が先生には黙ってろって……」
 宿を抜け出した生徒は二人。校長以下、慌てふためく同僚達に毅然と向き直り、鵺野鳴介は力強く言い放った。
「俺が連れ戻してきます! ――お前ら、お叱りは後でたっぷりだ」
 黒の手袋をした左手で生徒の肩をポンと叩き、鳴介は旅館を飛び出していく。

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 00:55:23 ID:lAIlEs3T0
(高志……あのイタズラ小僧! 真面目な明日香まで……)
 霊水晶は二人の生徒が山中へ向かったことを示していた。詳しい足取りは掴めないが、一刻も早く連れ戻さなければ。あの山は今、普通ではないのだ。
(クッ、やばいな……)
「強い妖気を感じますね」
 山道を駆け上がる鳴介の隣で、突如、若い女の声がした。揺れる水色の髪と、微かな冷気。
「ゆきめくん、なぜ君まで!」
「先生が心配ですもん。生徒の事となると無茶しかねないんだから」
 ちゃっかりこの修学旅行にまで付いてきていた若妻のゆきめが、彼に付いて走りながら若干頬を膨らませる。なぜ一人で行こうとしたのか、と拗ねるように。
「私、先生の奥さんなんですよ?」
「……それより、問題はこの妖気だ。島に着いた時から感じていたが……ますます育って来ているぞ。生徒達が出くわさなければいいんだが……」
 そこまで言ったところで、鳴介は突然ざっと足を止めた。
「きゃっ! 先生、どうしたんですか!?」
 躓きそうになったゆきめが鳴介に振り返る。彼は夜空を見上げ、意識を集中させていた。
 今まで感じていたのとは異質の妖気だ。何かが、それも高速で、こちらに迫りつつある。
「来るぞ!」
 ズボンの後ろポケットから経文を抜き、鳴介はゆきめを連れて飛び退いた。二人の立っていた地点に、目にも止まらぬ速さで何かが飛び込んでくる。
 ピキャア、と一声鳴いて、その何かは地面すれすれで旋回した。鳥だ。妖気を纏った小さな鳥が赤い翼をはためかせ、鳴介達をぎらりと睨みつける。
「白衣霊縛呪っ!」
 鳥の突撃を紙一重でかわし、鳴介の経文が空に閃いた。鳥の放つ妖気を独りでに追い、経文がぐるぐると鳥の体に巻き付いて動きを封じる。
 鳥はバタバタと翼を動かし、経文の拘束に抵抗していたが、やがて静かにその動きを失った。

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 00:57:24 ID:lAIlEs3T0
「これは……?」
 鳴介とゆきめが顔を揃えてその鳥を覗き込む。機械仕掛けの人工物のように見えるそれは、しかして微かな妖気を放ち続けていた。
「付喪神……いや、式神、かな」
「シキガミ? 何ですか、それ」
「昔の陰陽師が使役したとされる、下級精霊の一種だ。しかしこれは……。ううむ……?」
 鳴介は左手を前に出し、経文を巻き付けられた赤い鳥にそっと触れてみた。手袋越しに式神の思念が彼に伝わる。
「……この鳥は……何かを探すように命令を受けていたらしい。敵対する何かを追っていたのかもしれん」
「命令、って。一体誰がこれを?」
「待て、これを放った術者の居所がわかるぞ……そこへ再び戻るように命令されていたようだからな。この山の中か……」
 鳴介がさらに集中を強め、式神の術者について何か情報が読み取れないかと試みた、その時だった。
「うわあぁぁっ!」
 突如として山の奥から誰かの悲鳴が聴こえた。若い男の声だ。
「今のは!?」
「生徒ではないな。だが、どうやら只事じゃない」
 悲鳴の方角から強い妖気が漂ってくる。そう遠くではない。
「俺はあっちへ行く! ゆきめは式神の来た方を探ってくれ!」
「ハイ、先生!」
 ゆきめと視線を交わすやいなや、鳴介は闘志を漲らせて山道を駆け出していった。

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:00:58 ID:lAIlEs3T0
とりあえずこのまま行きます

     *     *     *

 式神の残した妖気の痕跡を辿って、ゆきめは山の中腹へと踏み入っていた。
 鳴介の言った「只事じゃない」という言葉の示す意味は、ゆきめにも良くわかる。今朝フェリーで上陸した時から、ここ屋久島には不穏な妖気が流れていた。
 もっと詳しく言うなら――何者かの手で、幼い妖怪がまさに育てられつつあるかのような気配なのだ。
(あの式神を放ったのが、妖怪を育ててる誰かだったら……)
 また、大きな戦いが起こるかもしれない。ゆきめは少しでも鳴介の役に立ちたかった。
「……!」
 夜闇の向こうに炎が揺れているのを見て、彼女はふと足を止めた。あれは焚き火だろうか、炎の近くに二つの小さな人影が見える。
「あれは……生徒たち!?」
 ゆきめは炎の側へ駆け寄ろうとした。だが。
「おっと!」
 木陰から、ざっと一つの影が飛び出し、彼女の前に立ち塞がる。
「あの子達に近付かせる訳には行かないな」
 人間の男だ。……いや、ただの人間ではない。
(微かな妖気!?)
 普通の妖怪とも、鳴介のような霊能力者とも違う、不思議な気を男は纏わせていた。
 ゆきめは若干の武者震いを覚えながら、男に向かって問う。
「あなたなの? あの式神を放ったのは」
「……ああ、やっぱり、お前らが止めてやがったのか」
 男が飄々とした口調で言い放った。余裕を湛えたような表情で、真っ直ぐゆきめを睨んでくる。それは、敵を見るというより――これから狩る獲物を見ているような、そんな視線だった。
 視界の奥に揺れる焚き火の側からは、既に子供の影はなくなっている。

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:01:50 ID:lAIlEs3T0
「あの子達を渡しなさい!」
 ゆきめが声を張り上げる。へっと笑って、男は言った。
「お断りだね」
 男がパチンと指を鳴らした瞬間、先程と同じ赤い鳥が男の背後から飛び出し、ゆきめに向かってくる。
「!」
 咄嗟に飛び退いて避けようとしたが、翼の一撃が彼女の片腕に一条の傷を刻んでいた。その痛みを意にも介さず、ゆきめは飛び上がる。戦うしかない。
「ハッ!」
 一瞬にして雪女の白装束に変わり、翳した片腕から吹雪の渦を放つ。男には避けられたが、続けざまに放った二撃目の吹雪は迫り来る赤い鳥を確実に捕らえた。鳥が瞬時に凍り付き、地面に落ちる。
「雪女……ってか?」
 男が態勢を立て直し、ゆきめの姿をぎんと睨み付ける。余裕を与えるつもりなどない。ゆきめは両手から冷気を放ち、男の足元を瞬く間に氷漬けにしてしまった。
「!」
 両の足を地面もろとも凍り付かせられ、男が動揺の色を見せる。ゆきめは冷気を纏った右手を男に付きつけたまま、ゆっくりと男に近付いていく。
「……あの子達を渡してもらうわよ」
「ふん。そう簡単にいくかよ」
 男は右手に何かを手にしていた。あれは――。
「御鬼輪!?」
 そうだ、あれと似た法具にゆきめは見覚えがあった。鬼の顔を象った金色の何か。腕輪の形こそしていないが、禍々しい鬼面は底知れぬ妖気を秘めて見える。
「何だ、これを見るのがそんなに怖いか?」
 射抜くような男の視線に気圧されて、ゆきめは思わず一歩後ずさった。
(鵺野先生……!)

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:02:39 ID:lAIlEs3T0
     *     *     *

 悲鳴はやはり聞き違いではなかった。月明かりに照らされた山道の向こうで、斜面から落ちそうになり、必死に片腕で木の枝を掴んでいる青年の姿がある。そして、その青年ににじり寄る、忌まわしい妖怪の姿。
「待てーッ!」
 鳴介は走りながら左手の手袋を引き掴んだ。間一髪で間に合ったようだ。蟹のような鋏を持つ妖怪に向かって、鵺野鳴介の切札、「鬼の手」が炸裂する。
「無に還れ!」
 鬼の力を秘めた左手が一閃し、妖怪の体をばらばらに引き裂いた。その体躯の残骸が地面に散り、土塊のようになって消える。
「ふう……。さあ、掴まれ」
 鬼の手を再び手袋に隠し、鳴介は青年に手を差し伸べた。
「あ、あなたは……!? 今の力は一体……」
「あー、俺は……。霊能力者、ってとこだよ」
 目を白黒させている青年に向かって、彼はにっと笑ってみせた。どうだろう、格好いいかな、なんて思いながら。
 ――と、その時。
「……ゆきめ!?」
 強い胸騒ぎを感じ、鳴介は勢いよく立ち上がった。彼の霊感がゆきめの危機を伝えている。ぽかんとする青年をその場に残し、鳴介は走り出していた。

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:03:19 ID:lAIlEs3T0
(何だ……この妖気は!?)
 朝から感じていた山の不穏な妖気とは違う、何か禍々しい力をその方角から感じる。式神が来た筈の方角。ゆきめが向かった方角。一体何が――。
 木々の合間を駆け抜け、鳴介はその妖気の源へと迫った。
「ゆきめ!」
 雪女装束の後姿を視界に捉える。そして、その向こうに立つ、もう一つの影。
「鵺野先生!」
 ゆきめが振り向いた。その傍らにざっと飛び込み、鳴介はゆきめを後ろに守るようにして立つ。
 その眼前には、妖気の源たる謎の男が、足元を凍らされながらも不敵な佇まいを見せていた。
「……ゆきめ。無事でよかった」
「先生、こいつです、こいつが子供達を……」
 ゆきめの声が微かに震えている。鳴介は男と視線をぶつけ合いながら、左手の手袋にそっと手を掛けた。
「お出ましって訳か」
 男が手短に言い、右手に持った法具を軽く左手に打ち付けた。不思議な音の波動が辺りに広がり、男の発する霊力が一気に高まっていく。
「な……!? ば、馬鹿な、あの妖気は……!」
 鳴介は戦慄を覚えた。あの男から溢れ出す妖気。種類は違えど、彼の左手と質を同じくする力。あれは――
「鬼……!」
 凄まじい妖気を放ちながら、男は法具を手にした右腕をゆっくりと持ち上げていく。男の双眸が鳴介とゆきめを突き刺すように見据えていた。
「クッ……! 南無大慈大悲救苦救難、広大霊感白衣観世音菩薩!」
 観音経を唱え、鳴介は左手の手袋を一気に取り払う。
「我が左手に封じられし鬼よ! 今こそその力を示せっ!」



(続く)

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:18:50 ID:lAIlEs3T0
とりあえず第二部いってみよう。全三部構成です



仮面ライダー響鬼
「鵺鳴く夜」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:19:29 ID:lAIlEs3T0
「いいか京介。鬼の力の原点は、自然と心を通わせることだ」
「ハイ!」
 月明かりも朧な夜闇の深山幽谷、千年の霊力を秘めた巨木を背にして、ヒビキは弟子の桐矢京介とともに座禅を組んでいた。
 夜の屋久島は人の光が届かない天然の暗闇だ。ヒビキにとっては落ち着く古巣のようなものだが、この地に初めて足を踏み入れる若き愛弟子は、静かに座禅を組みながらも雑多な恐怖に緊張を隠せないようだった。
「……そう強張るなよ。この闇も、森も、俺達の味方だぜ」
「ハ、ハイ……ヒビキさん」
 京介が、すう、と深呼吸するのが聴こえた。
 可愛い弟子だ、とヒビキは思う。最初の頃こそ減らず口ばかり叩いていたが、根は素直でひたむきで、目標のためなら努力を惜しまない。
 鬼としての一人立ちも間近だった。今回屋久島に来たのも、ヒビキ自身の音撃棒の修繕に加え、京介専用の音撃棒を新調してやるのが主たる目的だったのだ。
「……」
 少し離れて座る京介の気配から、強張った緊張が消えていた。満足げに口元を綻ばせて、ヒビキも本格的な瞑想に入ろうとする。
 ――その矢先だった。

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:20:01 ID:lAIlEs3T0
「!」
 何かが彼の第六感に響いた。ここではない、しかしそう遠くもない、山のどこかで蠢く邪心の気。熟練の戦士だけが感じ取れる、五感を超えた気配。これは――。
「ヒビキさん?」
 彼の様子をいぶかしみ、京介が不思議そうに顔を向けてくる。
「……魔化魍だ」
 座禅を解き、さっとヒビキは立ち上がった。慌てて自分もと立ち上がる京介に、ヒビキは言う。
「お前は山を降りろ。どうも厄介な事になりそうだ」
「そんな、ヒビキさん!」
 若者は師匠の前に出て、不満そうに口を尖らせた。
「俺はヒビキさんの弟子です。もう変身だって出来る……素人みたいに逃がさないで下さい!」
 両腕を広げて訴える京介。ヒビキは一瞬の沈黙を経て、軽く首を頷かせた。
「そうだな。……じゃあ、京介は山のあっちを攻めてくれ。俺はあっちに行ってみる」
「ハイ!」
 自分を真似た敬礼のポーズを取り、早速駆け出していく京介を見て、ヒビキは思わずふっと笑っていた。
 ――いつの間にか、あんなに強くなりやがって。

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:20:44 ID:lAIlEs3T0
 索敵用に茜鷹のディスクを十枚ほど飛ばし、ヒビキは山の中腹辺りを自らも探索していた。
 魔化魍が現れそうな地形にはいくつか心当たりがある。事前に見てきた九州支部の出現予測には出ていなかったが、以前倒したツチグモの件といい、管轄の最果ての屋久島ともなれば支部の対応も追い付かないのかもしれない。
「お?」
 ふと、茜鷹の一羽が戻ってきて、何かを促すようにピキャアと鳴いた。ヒビキはその茜鷹に先導され、山道を走ってゆく。
「……あれは……」
 子供の泣くような声が微かに聴こえてくる。茜鷹もその方角を目指していたようだ。夜闇を猛士謹製のライトで照らし、木々の合間を縫ってその場所に出てみると、そこには二人の子供の姿があった。
「おー。……よっ!」
 自分に気付いて顔を上げる子供達に、ヒビキは気さくに敬礼のポーズを取ってみせる。
 小学生くらいの男女だった。女の子の方は足を挫いているらしく、わんわんと声を挙げて泣いている。男の子はその側でオロオロとしながら、突然現れたヒビキと茜鷹を不思議そうに見上げていた。
「ちょっとちょっと、君達。子供が夜中に何やってんの?」
 軽い調子で言いながら、ヒビキは二人の傍らにしゃがみ込み、下ろしたリュックから無造作に医療ケースを取り出した。
「見せてみな。挫いたばっかだろ?」
 ライトで女の子の足首を照らし、彼は手際良く手当てをこなしていく。
「……ありがとう、お兄さん」
「お兄さん? おじさんでいいんだよ」
 ヒビキは女の子の頭を撫で、破顔一笑した。

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:22:38 ID:lAIlEs3T0
     *     *     *

 桐矢京介はライトを片手に、早歩きで山道を進んでいた。
 山のどんな地形に魔化魍が現れやすいかはヒビキから教わっている。そうだ、ここで師匠よりも先に魔化魍を見つけ、たまには良い所を見せなければ。
「……」
 心なしか、何者かの気配を遠く感じたような気がした。ヒビキの言っていた魔化魍の気配だろうか。京介は腰のディスクを手に取り、変身音叉を鳴らして、瑠璃狼を起動させた。
「行ってこい」
 駆け出した瑠璃狼は、ものの数分もしない内に戻って来て、京介の足元でガウガウと吠える。
「ビンゴか……?」
 ぐっと拳を握り締め、瑠璃狼の先導を受けて走り出す京介。――と、その瞬間。
「うっ!」
 踏み締めた地面が崩れ、彼の体は突如として足場を失ってしまった。
「うわあぁぁっ!」
 なんとか片手で木の枝を掴み、斜面を転落することは免れたが、それも束の間。夜の山中を踏み締める足音と共に、邪悪な気配がこちらへ近付いてくるのだ。
「……鬼の成りかけか」
 聞き慣れた薄気味悪い女の声。それを発する生気のない男の顔。魔化魍を育てる童子だ。

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:23:34 ID:lAIlEs3T0
「くっ!」
 なんとか片腕の力で這い上がろうとする京介の前で、童子の装束がしゅるしゅると首元に巻き取られ、その姿が瞬く間に怪童子へと変わってゆく。
「ちょっと痛いぞ……」
 腕の蟹鋏をかちかち言わせ、怪童子が京介の方へ歩み寄ってくる。万事休すと思われた、その時だった。
「待てーッ!」
 力強い男の声が響いたかと思うと、振り向く怪童子に向かって何者かが飛び掛かっていた。あの声はヒビキではない。――では、誰だ?
 次の光景は京介には理解できなかった。鬼に変身した訳でもないその男が、京介の眼前で、怪童子の体を真っ二つに斬り裂き倒してしまったのだ。
「!」
 京介が驚いていると、男はさっと彼に手を差し伸べてくる。
「さあ、掴まれ」
「あ、あなたは……!? 今の力は一体……」
 ヒビキより一回り若く見えるその男は、にっと京介に笑いかけた。
「俺は……霊能力者、ってとこだよ」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:24:23 ID:lAIlEs3T0
     *     *     *

 焚き火を焚き、子供達を一息付かせながら、ヒビキは一羽だけ戻ってこない茜鷹の行方を思案していた。
 どうもおかしい。ただの魔化魍だけではない、それ以外の何かがこの山には蠢いているような気配がする。あの茜鷹は敵の手に落ちてしまったのだろうか。
「……」
 ヒビキは子供達に目をやる。聞けば、二人は屋久島に修学旅行に来ていた小学生で、肝試しのつもりで宿を抜け出して山に入ったらしい。お叱りは学校の先生にでも任せておくとして、今はとにかく、魔化魍に狙われる前にこの子達を山から逃がすのが先決だった。
「……!」
 来た。まだ姿は見えないが、何かがこちらへ迫って来るのがわかる。魔化魍ほどの大きさではないが、童子と姫か、あるいは……。
「いいか、少年少女。俺が守ってやるから、向こうに隠れて大人しくしてるんだ」
 震える二人の頭に手を置いて、ヒビキは立ち上がった。

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:26:10 ID:lAIlEs3T0
 敵が焚き火を見つけたようだ。速度を上げ、真っ直ぐこちらへ向かって来ようとするその敵の前に、ヒビキは木陰から颯爽と飛び出して立ち塞がる。
「おっと。あの子達に近付かせる訳には行かないな」
 そこには女の姿があった。現代的な服装を纏っており、普段相手にする魔化魍の姫とは様子が違うが、明らかに人間でないことだけは確かだ。
「あなたなの、あの式神を放ったのは」
 女が口を開いた。茜鷹の事を言っているらしい。
「……ああ、やっぱり、お前らが止めてやがったのか」
 飄々とした口調でヒビキは言い放つ。鬼として、化け物の前で余裕を崩したら負けだ。
「あの子達を渡しなさい」
 敵の言葉にヒビキはへっと笑った。子供達はどうやら、言いつけ通りに木々の奥へ隠れたようだ。
「お断りだね」
 言うが早いか、ヒビキはパチンと指を鳴らし、自分の背後に待機させていた茜鷹に合図を送った。茜鷹が全速力で敵に突っ込み、その片腕に一条の傷を刻む。
 次の瞬間、飛び上がった敵の姿が着物のような白装束に変わっていた。上空から吹雪の渦が襲い掛かる。ヒビキがすんでの所でその攻撃を避け、地面に転がり込んだその時、茜鷹が敵の吹雪を受けてがしゃりと地面に落ちるのが見えた。
「雪女……ってか?」
 態勢を立て直し、ヒビキは敵の姿をぎんと見据えた。
 あの姿が正体か。見た事のないタイプだが、あえて言うなら装束の形はイッタンモメンの姫に似ている。北海道支部や東北支部の管轄には冷気を操る魔化魍も出ると聞くが、よりによって、本州の最南端にそんなものが出現するとは。

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:27:37 ID:lAIlEs3T0
「!」
 敵の連撃が避け切れなかった。冷気の渦を受け、ヒビキの足元が一瞬で凍り付いてしまう。氷は彼の両足と地面とを固く結び付け、下半身の動きを奪ってしまっていた。
「あの子達を渡してもらうわよ……」
 女が右手を翳し、ゆっくりと近付いてくる。なるほど、確かにこの冷気は強力だ。だが……炎の鬼法術を極めたこの響鬼を、倒せる物ならやってみろ。
「ふん。そう簡単にいくかよ!」
 ヒビキは右腰から変身音叉を抜いた。屋久島の雄大な自然を味方に付け、鬼の力がいつになく高まっていくのが分かる。
 ヒビキが音叉を手にした瞬間、敵の表情は明らかにたじろいでいた。
「何だ? これを見るのがそんなに怖いか?」
 不敵に笑い、ヒビキは音叉を振ってその角を開く。
 ――と、彼の耳に、木々の合間を縫ってこちらへ駆けてくる新たな足音が飛び込んで来た。敵の新手だ。女を守るかのように、男の姿がざっとヒビキの眼前に躍り出る。
 男の気配もまた人間ではなかった。何か言葉を交わし合っている所を見ると、女と対になる存在らしい。
「お出ましって訳か」
 変身音叉を左手で軽く叩く。キィーン……と音叉の波動は辺りに広がり、ヒビキの全身を自然の気が覆い始める。
 敵は祝詞とも経文とも付かぬ何かを唱え、その片手を人外の異形へと変化させた。
 ヒビキは波動を纏った変身音叉をゆっくりと額に近付けていく。自然の力がますます強く渦巻き、自らの発する炎の気と呼応して鬼の力を呼び覚ます。音撃戦士響鬼、その出番が来たのだ。



(続く)

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:35:06 ID:lAIlEs3T0
よし、じゃあ第三部いきましょう


地獄先生ぬ~べ~×仮面ライダー響鬼
NOVEL大戦in屋久島

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:36:21 ID:lAIlEs3T0
 少年は困惑を隠せずにいた。自分が連れ出したせいでクラスメートに怪我をさせてしまった後悔と、その後悔を意地でも口に出したくない気持ち。その気持ちを何と呼ぶのか彼は知らなかった。
 しかし、それにも増して少年に手に汗握らせるのは、焚き火の向こうにゆらめく二人の男達の姿に他ならなかった。明日香の手当てをしてくれ、自分達を守ると言ってくれたあの男。そして、尋常ならざる雰囲気で彼と向き合っている、もう一人の男の姿。
「高志ぃ、あれ……」
 明日香がハラハラした様子で袖を引っ張ってくる。言われなくても分かっていた。あれが誰なのか。しかし、どうして。どうして彼が、あの男と敵のように向かい合っているのだ。
「高志、止めに行かなきゃあ……あの人と先生、戦っちゃう!」

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:37:04 ID:lAIlEs3T0
     *     *     *

 観音経も高らかに鬼の手を現出させた鳴介と、変身音叉を今にも額に翳さんとするヒビキ。睨み合う二人の視線は火花を散らし、その闘気の昂ぶりは屋久島の木々をざわざわと揺らす程であった。
「お前……鬼なのか」
 鳴介が問う。不敵に笑ってヒビキが答える。
「ああ、鬼だよ」
 変身音叉がいよいよヒビキの額に鬼面を浮かべる。鳴介が鬼の手の五指をがっと開く。
 両雄の激突がまさに始まろうとした、その時だった。
「待って!」
 少女の声が二人の緊張に割って入った。咄嗟に鬼面を消して振り向くヒビキの横から、少女が彼を庇うように飛び出して、鳴介に訴えかける。
「待って先生! この人、あたし達を助けてくれたんです!」
「な……!?」
 教え子の言葉に鳴介が目を瞬いた、その直後。
「ヒビキさん!」
 斜面を駆け下りて青年がその場に現れ、二人の間に滑り込んだかと思うと、息を切らしてヒビキの顔を見上げた。
「この人、童子を倒して俺を助けてくれました。敵じゃありません!」
「何だって……?」
 弟子の言葉に今度はヒビキが目を見張った。

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:37:37 ID:lAIlEs3T0
     *     *     *

「じゃあ、お宅もアレ? ……魔化魍退治?」
 ヒビキは人差し指を立て、焚き火を挟んで座る鳴介に問い掛ける。その視線からは敵意や緊張は消え失せ、いつものヒビキの調子に戻っていた。
「まかもう? ……ええ、まあ。妖怪退治ってとこです」
 手袋をした左手で頭をかきながら鳴介も答える。どことなく照れ臭そうな様子だったが、むしろ相手を味方と認めた口元の緩みだ。互いにまだ分からない事だらけでも、同じ正義の心と力を持つ男同士、意気投合は時間の問題だった。
「うが」
 突然、鳴介の左手がにょきにょきと盛り上がり、手袋を押し退けて赤鬼の頭が出てくる。
「うが、人間。俺も話に混ぜろうが」
「覇鬼! 人前で勝手に出てくるなって何度言ったら」
 慌てて右手で鬼の頭を押さえる鳴介。その光景には流石のヒビキも目を丸くしていた。
「こいつ相手なら問題ないうが。俺達鬼と同じにおいを感じるうが」
 にゅっとヒビキに向けられる覇鬼の頭を、ヒビキはぽかんとして指さす。
「……何? これ」

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:38:19 ID:lAIlEs3T0
 焚き火から少し離れた所で、小さな簡易ストーブの火がしゅんしゅんと揺れている。桐矢京介は慣れかけた手つきでレトルト食品の調理をしながら、ヒビキと鳴介の様子をちらちらと伺っていた。
 傍らでは、「TAKESHI」のロゴが刻まれた寝袋にくるまり、先程鳴介に叱られたばかりの子供達が呑気にも静かな寝息を立てている。
「手伝おうか?」
 鍋を覗き込み、ゆきめが声を掛けてきた。
「私、これでも鵺野先生のごはんを毎日作ってるんだから」
 さりげなく京介の手からお玉を取り上げようとするゆきめと、さっと動いてそれをかわす京介。
「へ、平気です。俺はヒビキさんの弟子なんだ、このくらい一人で」
 京介は躍起になって鍋をかきまわし始める。ゆきめはふっと一息ついて、眠る子供達に目をやり、それからまた京介の鍋を覗いた。
「……妖怪の事なら大丈夫よ。鵺野先生が倒してくれるから」
「な……。魔化魍を倒すのはヒビキさんだ。そっちこそ安心して見てるんだな」
 京介がむっとして口をとがらせる。その隙をついて、ゆきめが再びお玉に手を伸ばす。
「先生は日本でただ一人の霊能力教師なんだからねっ!」
「何を、ヒビキさんは日本で一番強いんだぞ。ってか、お玉返せ!」
 ぐつぐつと音を立てる鍋を前にして、お玉の取り合いを繰り返す二人。

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:39:11 ID:lAIlEs3T0
「……正直さ、驚いてるよ。雪女とか、左手のそれとかさ。世の中にはまだまだ俺の知らない事が沢山あるんだな、なんて」
「いやあ、まあ、俺のこれは特別ですから」
 出たがりの覇鬼をどうにか手袋の下に押し込め、鳴介は言う。
「あなたの方こそ俺には不思議です。『鬼』と言っていたが、さっきまで感じていた妖気も、今は見られない……。霊能力者とも違うんですか」
 妖気だの霊能力だの、聞き慣れない言葉にヒビキは若干きょとんとしていたが、ややあって軽い口調で語り出した。
「まあ、俺達『鬼』っていうのはさ。山に籠って体を鍛え、心を鍛え……鬼みたいな力を得た人間、ってとこかな」
 ヒビキが鼻先を指でこする。鳴介は自然に腕を組み、「ふうむ……」と唸っていた。
「聞いた事はあります。陰陽道の修験者の中には、厳しい修行を積むことで霊力を高め、鬼となって魔物を祓った者がいた……。彼らの術は『鬼道』として密かに伝えられ、嘘か本当か、明治の頃までは全国各地にその流れを受け継ぐ修験者の秘密組織があったとか」
 トレードマークの眉毛をピクつかせ、解説慣れした口調ですらすらと述べる鳴介に、ヒビキはふっと吹き出す。
「ははは、詳しいな。でも、猛士は今でもあるんだぜ。どんな時代になっても、人知れず魔化魍を倒して、人里の平和を支えてるってわけさ」
 さて、と大きく伸びをして、弟子達の様子を振り仰ぐヒビキ。
「食事はそろそろ出来たかな……、って」
 ヒビキと鳴介の視線の先に映ったのは、吹きこぼれる鍋をそっちのけにして、お玉やお椀をバタバタと取り合う弟子と若妻の姿だった。
「ヒビキさんだ!」
「鵺野先生よ!」
「……何やってんだ、あいつら……」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:40:10 ID:lAIlEs3T0
     *     *     *

 屋久島の夜が明ける。騒々しい食事風景の後の短い仮眠から起き出し、海岸の岩場に座ってヒビキが音撃棒の修繕をしていると、そこに鳴介がやって来た。
「やあ、早いですね」
 自分の隣に腰を下ろす鳴介に、ヒビキは「シュッ」とお決まりの敬礼のポーズを取ってみせる。
 空はうっすらと白ばみ、波打つ水平線の向こうから朝日が僅かに上り始めていた。
「それが、音撃棒ってやつですか」
「まあね。ここの霊木がさ、俺の手には一番馴染むんだよね」
 撥の形に削り出した霊木に鬼石を繋ぎ合わせ、彼はその持ち具合を確認している。鳴介はそれを興味津々な様子で見ていた。
「……こうしてるとさ、思い出すなあ。アイツと出会った時の事を」
 独り言のようにヒビキが言う。
「アイツ? あのお弟子君ですか?」
「いやいや。あの京介とは別のね、自慢の弟子だよ。……ま、人生、どうなるか分かんないもんだよな」
 手元でクルクルと回していた音撃棒を、ぱしりと握り込んで、ヒビキは鳴介に顔を向けた。
「お宅もさ、良い生徒を持ってるじゃない」
「……いやあ、悪ガキですよ。クラスでも、いつも俺に反抗する事ばっかり考えてる」
「あのくらいの少年はそんなもんだろ? 素直になれないだけさ。ま、そこらへんは、俺よりお宅の方がよくわかってるんじゃないの」
 鳴介の肩に手を回して、にっと笑い掛けるヒビキ。
「……ええ。今まで出会った生徒も、最初はあんな感じでした。アイツもきっと懐いてくれるって信じてますよ」
 鳴介もヒビキに笑い返した。朝焼けがじわじわと空を赤く染め始めている。
「だから、今はとにかく、妖怪を倒して生徒達を無事に連れ帰ります。それが俺の仕事ですから」
「ああ。頑張ろうぜ」
 ヒビキが拳を突き出し、鳴介がそれに応える。二人の男の拳が突き合わされた、丁度その時であった。
「お。お呼びだ」
 変身音叉が小刻みに震え、一羽の茜鷹がヒビキの元に戻ってくる。
「ディスクが化け物の居場所を掴んだらしい」
「俺の仕掛けたフーチも反応している……。行きましょう!」
 霊水晶を手に颯爽と立ち上がる鳴介と、よっしゃ、と尻をはたきながら腰を上げるヒビキ。

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:41:01 ID:lAIlEs3T0
 邪悪な気配の高まりが五感を超えて肌を刺す。山道の険しさも二人にとっては障害にならない。化け物の巣を一気に目指し、ヒビキと鳴介が木々の合間を縫って駆ける。
 京介とゆきめには子供達の警護を任せていた。童子の方は昨夜鳴介が片付けたので、残るは姫と魔化魍。京介から聞いた怪童子の特徴から見るに、魔化魍は――
「バケガニ、だな」
「化け蟹?」
 険しい岩場を何事もなく飛び越えながら、二人は言葉を交わす。
「メジャーな魔化魍だよ。だけど今回の奴は、なんか、普通のバケガニとは違う気配を感じるんだよな」
「ええ……自然の妖怪の気配だけではないですね。何者かが妖力を与えて強化しているような」
「そんな事まで分かるのか? ……まあ、ここ最近、そういう傾向も強くなってるからさ」
 大きな岩をひらりと飛び越し、二人は水辺に着地して足を止めた。
「お出ましですね」
「ああ……」
 滝壺の洞窟から、巨大な蟹の影がゆらり、と彼らの眼前に姿を現すところだった。

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:41:43 ID:lAIlEs3T0
     *     *     *

「来たな……」
 ディスクが持ち帰った情報を音叉で再生し、京介は僅かに武者震いしていた。この反応は姫だ。ヒビキや鳴介が危惧していた通り、人間の匂いを嗅ぎつけ、魔化魍とは別行動でこの場所に迫って来たらしい。
「俺が倒してやる!」
 子供達の様子を見ている筈のゆきめに事態を知らせることもなく、京介はディスクの示す地点へと向かった。
 変身音叉を手に取り、汗の滲みを感じながら辺りを見回す。敵を気配で感じ取るより先に、おぞましい声が彼の耳に飛び込んできた。
「鬼か……、ちょっとだけ鬼か?」
 バケガニの姫が視界の向こうに現れ、男声を発しながら姿を変化させていく。ただのバケガニの妖姫ではなかった。片腕の鋏は通常よりも大きく、体を包む甲羅は随分と頑丈そうだ。
「もうすぐ、鬼だ!」
 音叉を開き、木の幹に打ち付ける京介。清らかな音色が森の空気と調和し、音叉を翳した彼の額に金色の鬼面が現れる。
「ハアアァァッ!」
 昂ぶる気勢を叫びに変え、京介は紫色の炎を纏った。その体が炎の中で変化し、銀色の体と紫の隈取、師匠より多い四本の角を持った鬼の姿へと変わる。
「おりゃあっ!」
 変身と同時に京介は妖姫に飛び掛かった。連続で浴びせるパンチ、怒涛の勢いで繰り出すキック。鍛えた甲斐を見せてやる、とばかりに、京介の猛攻が続く。
「ちょっと調子に乗りすぎだな……」
 妖姫が鋏の無い方の手で京介の片腕を掴んだ。抵抗する間も無く、巨大な鋏がその体に打ち付けられる。
「ぐっ!」
「ちょっとお仕置きだ」
 鋏の攻撃が二度、三度と京介の腹を捉えた。その威力に押し戻され、地面に倒れる京介。鋏をかちかちと動かし、妖姫が京介ににじり寄って来る。

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:42:18 ID:lAIlEs3T0
「くっ……!」
 京介が手を付いて立ち上がろうとした、その瞬間。
「――ハッ!」
 上空から吹雪の渦が妖姫を襲い、その体躯を押しとどめてしまった。
「まだまだ鍛えが足りないみたいね、鬼の弟子さん?」
 純白の袂をはためかせ、冷気の風を纏ったゆきめが京介の眼前に舞い降りる。
「お、お前!」
 京介はゆきめを二秒ほど睨み付け、態勢を立て直すやいなや妖姫目掛けて駆け出した。ゆきめを押し退け、腰の音撃棒を抜いて妖姫に振りかぶる。
「こいつは俺がやる! 化け物退治は鬼の役目だ!」
 紫色の鬼石が立て続けに妖姫の体を撃ち、苦痛の叫びを上げさせる。京介の連撃は止まらない。音撃棒とキックを続けざまに見舞い、ついには妖姫を遥か後方へ押し飛ばしてしまった。
「どうだ、俺はかなり強い! 半端にウロウロするくらいなら、そっちでじっと見てるんだな!」
 振り返り、音撃棒をゆきめに突き付ける京介。ゆきめは露骨に怒りマークを額に浮かべ、両手を翳して氷の塊をいくつも撃ち出した。
「!?」
 氷が京介の頭上を通り過ぎ、彼の背後からまさしく飛び掛かろうとしていた妖姫の体に突き立つ。
「今、危なかったわよ」
「ちっ……!」
 再び妖姫に向き直る京介。その隣にざっとゆきめが並び立つ。
「素直じゃないわね。一緒に戦ってあげるって言ってるの!」
「何だよ、『あげる』って。姫くらい俺だけで倒せる!」
 この期に及んでまだ丁々発止を繰り返す二人の前に、鋏を振りかざした妖姫が憤怒の形相で飛び掛かって来た。
「おっと!」
 京介が師匠直伝の鬼火を吐き、ゆきめが冷気の風を巻き起こす。炎と冷気に半身ずつを撃ち抜かれ、妖姫の体がどさりと地面に落ちた。
「行くわよ!」
 ゆきめが瞬時の跳躍で空へ舞い上がり、立ち上がる妖姫の動きを氷漬けにする。京介の音撃棒が風を切って閃く。
「トアアァァッ!」
 二条の連撃が気勢を放って炸裂し、妖姫の体を氷ごと打ち砕いた。

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:43:17 ID:lAIlEs3T0
>>54
ゆるめましょうか?

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:44:26 ID:lAIlEs3T0
     *     *     *

 水飛沫を上げて現れた魔化魍バケガニの全容を前にして、二人の男はどこか余裕を湛えたようにその巨体を見上げていた。
「蟹のくせに鋏が四本だと……」
「初めて見るタイプだな。……そんじゃま、やりますか」
 ヒビキが腰の変身音叉を無造作に手に取る。並び立つ鳴介が、さっと手袋に手を掛ける。
「キィィィ!」
 バケガニが板の軋むような音で鳴いた。二人は軽く視線を交わし合い、互いにニヤリと笑みを浮かべる。
 周囲に渦巻く気の流れが変わっていた。静かに燃え上がる闘志を秘めて、二人の眼光が戦いの炎を宿す。
 音叉の音色が高々と空を渡った。額に鬼面を浮かべるが早いか、ヒビキの体が一瞬にして炎に包まれる。紫色の炎が彼を包んで轟々と燃え上がり、その服を散り散りに吹き飛ばしてゆく。
「ハアアァァァ……」
「南無大慈大悲救苦救難……広大霊感白衣観世音菩薩」
 経文を厳かに詠唱し、鳴介の霊力が極限まで研ぎ澄まされる。構えた左手からは荒ぶる鬼の力が溢れ出し、封印を解かれる時を今か今かと待ち望んでいるようだった。
「我が左手に封じられし鬼よ……! 今こそその力を示せ!」
「アアァァァ……タアッ!」
 鳴介が封呪の手袋を払い、響鬼が炎を振り払って姿を現す。鬼の手と音撃戦士。二つの巨大な力が屋久島の朝日を浴びて解き放たれた。

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:44:58 ID:lAIlEs3T0
「行くぞっ!」
 唸りを上げるバケガニ目掛けて跳躍する響鬼。水を巻き上げて駆け出す鳴介。バケガニは敵の出現にいきり立ち、四本の鋏を縦横無尽に振り回して二人に襲い掛かってくる。
「哈ッ!」
 鬼の手の一撃がバケガニの足元に食い込んだ。だが、霊体を斬り裂く鬼の手でもバケガニの足を破壊するには至らず、鳴介の体は振り落とされてしまう。
「トオッ!」
 響鬼はバケガニの甲羅に音撃棒の打撃をお見舞いしていた。硬い外殻を誇るバケガニにはそれも通用せず、ばしゃりと飛沫を上げて鳴介の近くに振り落とされる響鬼。
「クッ……流石に硬えな」
「行くぞ覇鬼! 鬼力解放……三十パーセント!」
 再びバケガニに向かって駆け出す鳴介。振り翳した鬼の手が光を放ち、分厚い剣のように形を変える。
「ハアァ!」
 しゅばっ、と鬼の剣が一閃し、バケガニの足の一本を斬り飛ばす。八本の足の内の一つを失い、バケガニが僅かにバランスを崩した。
「おー、やるなあ。じゃあ俺も……!」
 一本の音撃棒を両手で構え、炎の気を込める響鬼。真紅の鬼石に炎が灯り、凄まじい勢いで燃え上がってゆく。
「烈火剣!」
 現出した炎の剣を振り上げ、響鬼はバケガニの足元に滑り込んだ。火の粉を散らし、バケガニの足が一本二本と吹き飛ぶ。

60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:45:37 ID:lAIlEs3T0
「やるぞっ!」
「よし!」
 響鬼と鳴介が頷き合い、呼吸を合わせて高空へと飛び上がる。二つの剣が空に閃き、バケガニの巨大な鋏をそれぞれ斬り落とした。
「キィィィィ!」
 バケガニの叫びが鋭く耳を突き刺す。颯爽と着地し、敵の姿を振り仰ぐ二人。
「行けるか……?」
 響鬼は装備帯から音撃鼓を取り外し、もがくバケガニの懐に飛び込んだ。巨大な蟹の腹を目掛け、音撃鼓を勢いよく押し付ける。
「ンキィィィッ!」
 バケガニが一層激しく身を震わせた。音撃鼓が張り付かない。残った鋏と足を振り回し、響鬼の体を弾き飛ばすバケガニ。
「クッ……」
 再び立ち上がろうとする響鬼の眼前に、バケガニの巨大な鋏が迫っていた。
「うおっ!?」
 咄嗟の防御が間に合わない。だが。
「白衣霊縛呪っ!」
 鳴介の経文が一瞬で敵の鋏を捕らえた。甲羅の上に乗り、霊縛呪でバケガニの体躯をがんじがらめにする鳴介。ばちばちと稲妻が爆ぜ、白衣観音の力が魔化魍の動きを封じ込める。
「今だっ!」
「よおし……!」
 この機を逃すことなく、響鬼が音撃鼓をバケガニの白い腹に叩き付けた。見る間に鼓が巨大化し、三つ巴の紋が淡い光を放って展開する。響鬼が音撃棒を振りかぶった。

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:46:31 ID:lAIlEs3T0
「ハアッ!」
 どおん、と一発、空気を震わすように太鼓の音が鳴り響く。
「火炎、連打の型ア!」
 清めの連打が始まる。阿吽の音撃棒が二度三度、四度五度と鼓の中心を捉え、その度に広がる音撃の波動がバケガニの巨体を内部から揺さぶっていく。
 鳴介が霊縛呪を解き、バケガニの上からざっと飛び降りた。途端に鋏を振り回してのたうち回るバケガニ。だが、その巨大な体がいかにもがこうとも、響鬼の力強い音撃の鼓動を止める事など出来はしない。
「ハッ! タアッ! ハアッ!」
 繰り返される連打を受けて、バケガニの外殻がぴしぴしとひび割れ始める。響鬼は二本の音撃棒を後方に振り上げ、一際勢い良く鼓に叩き込んだ。
「仕上げだアァッ!」
 その凄まじい一撃がバケガニの体躯を空中に跳ね上げる。為すすべなく空を切る巨体の先に、鳴介の鬼の手が待ち受けていた。
「無に……還れッ!」
 無限に高まる霊力を切れ味に変え、必殺の左手がバケガニの体を貫く。幾多の妖怪を祓ってきた鬼の力が今、巨大な魔化魍を一刀両断に斬り裂き、その邪悪な魂もろとも爆発四散させしめたのだ。
 土塊がべしゃりと水面を叩き、木の葉がひらひらと舞い落ちる。
「終わったな」
 顔の変身を解くヒビキ。額に玉の汗を散らせ、二人の男はがしりと腕を交わし合った。
 朝焼けが美しく東の空を染め、屋久島の空気はどこまでも雄大に彼らを包み込んでいた。

62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:47:33 ID:lAIlEs3T0
     *     *     *

「いーや、強いのは絶対ヒビキさんだな。あの先生の鬼は左手だけだろ? ヒビキさんは鬼そのものに変身できるんだから」
「あーら、鵺野先生は本家本元、地獄の鬼と一体化してるのよ。人が鍛えてなる鬼とじゃ桁が違うんじゃない?」
 子供のような言い合いを続ける二人の大人を視界の隅に見ながら、少年はじっと腕を組んで突っ張っていた。
「……高志、先生が戻ってきたらさ……ちゃんと謝ろうよう」
「へっ、何ば言うとると。あんな先生……」
 あの先生のクラスになって数か月、少年はずっと素直に彼を好きになれずにいた。
 得体の知れない怪談話ばかりしているくせに、いつの間にか生徒の人気を欲しいままにしている先生。ヘラヘラとお調子者のように笑い、妖怪退治の作り話までして、必死に生徒の気を引こうとしているのが見え見えだ。
 ……いや、それが作り話でないことなど、少年はとっくに知っていたのかもしれない。
 自分はその現場に居合わせた事がない、ただそれだけを柱にして、先生の話を嘘だ嘘だと言い張り続けて。
 ……本当は先生を好きになりたい自分を、必死に認めまいとしていた。

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:48:18 ID:lAIlEs3T0
「おーい!」
「!」
 先生の声だった。少年と明日香が振り返った先で、ヒビキと並んでこの場に戻ってきた鵺野鳴介が、「よっ」と二人に笑いかけてくる。汗の滲む体は満身創痍なのに、それでも空元気のように明るく手を振って。
 言い争っていた京介とゆきめもようやく休戦し、口々に彼らの名を呼んでいた。
「何だお前ら、まだケンカしてたのか」
「仲良くしろよなー」
 ヒビキと鳴介にたしなめられ、逆に火が付いたのか、また二人が幼稚な舌戦を始める。

「そっちは鬼の姿に変身してるだけでしょ! 先生は本物の鬼なんだから!」
「くっ……ヒビキさんは人間のままでも十分強いぞ! 本当の妖怪だから何だっていうんだ!」
 エスカレートする二人の言葉を聞いて、鳴介が後ろ頭に大きな汗を浮かべながらわなわなと震えていた。
「待てお前ら! 俺は人間だっ!」
「えっ、そうだったの? てっきり奥さんと同じで妖怪の仲間だと」
 ヒビキの素の一言が鳴介に派手なダメージを与える。
「あーのーねー!」

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:48:57 ID:lAIlEs3T0
 子供同然にドタバタする大人達の様子を見て、少年は吹っ切れるように溜息をついていた。自然に明日香の手を引いて、先生の前へ歩み出る。
「ん、どうした? 高志」
「あー……。先生、ごめんなさい。おいは……」
 言葉を続けられぬまま、少年が先生の顔を見上げていると、彼はにっと白い歯を見せて彼の頭を撫でてきた。
「いいんだ、いいんだ。お前らが無事ならそれで。……ただし、宿を抜け出したバツとして、二週間の掃除当番な」
 鵺野鳴介の笑顔はひたすらに爽やかだった。なぜ皆がこの先生を好きになるのか、不思議と分かったような気がした。
 彼の肩の向こうから、ヒビキも少年に向けて笑いかけ、右手をくるりと翻す敬礼のポーズを送ってくる。
「それと、俺の事はこう呼んでくれ」
 朝日差す屋久島の森をバックにして、高志の担任教師は、決して忘れ得ぬその呼び名を胸を張って告げたのだった。

「――『ぬ~べ~』、ってな」



(完)

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:50:26 ID:lAIlEs3T0
おわり!

66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:50:50 ID:uMUOcRka0
乙!面白かった!

響鬼は20話くらいまでしか見てないけど

69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 01:55:38 ID:lAIlEs3T0
VIPだと台本形式のSSが主流だからこういうのはそぐわんかなあと思ったけど、まあやってみました

ちなみに普段はここでちまちまと響鬼の小説なんぞ書いてます。
http://www.geocities.jp/hibikigaiden/

なんかグダグダになったけど付き合ってくれてありがとう
後はぬ~べ~の怖かった話を語るスレにでもしてくれー

70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 02:00:21 ID:f6HLDLys0
乙!
響鬼観たことないけど面白かった

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/04/04 02:03:00 ID:Ju4rlDbd0
乙!
面白かったよ
スレッドURL: http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1301845803/5:
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